ご奉仕あそばせっ！メイド様！｜リアクション

ご奉仕あそばせっ！メイド様！

☆cat napへ向かう人

　２月下旬のある日、水上桜は糸が切れてしまったかのようなふわりとした感覚の中にいた。
　寝子高普通科に合格し、もう受験生でなくなった桜は、紙切れより薄いガラス板でトランプタワーを作っているような緊張感から解放されたのだ。
　趣味のアクセサリー作りの素材屋へ行こうかと街を歩いていた桜は、ふと１枚のチラシを手に取った。
「【cat nap】？　……可愛らしいメイド服。桜をイメージしたデザインなのね」
　見れば、バイトだけでなく一日体験もできる、とある。
「へぇ……メイドか……。何だか面白そうね」
　桜の中で、何かわくわくする気持ちが湧き上がっていた。
「これちょっと着てみたいかな、じゃ……じゃあ一度行ってみようか……」
　思い立ったが吉日と、桜はチラシの地図を見ながら道順を考え始めた。

「『メイドカフェ【cat nap】新装開店』……？　確かにそんな名前のカフェがあったはずだが……」　
　大学生クルト・エールヴァールは、叔父の経営する星ヶ丘のカフェ『nornir』で働いている。
（情報は仕入れているつもりだったが、あまり評判を聞かなかったな。……いや、自ら確かめもせずに物事を断じるのは愚かだな。いい機会だ、行ってみようか）
　真面目でやや堅物なクルトだが、完全にカフェの視察モードなので、メイドカフェに行くことに抵抗はなかった。
「立地は……確かに難があるな」
　チラシの簡単な地図を見ながらつぶやく。
（だが、ウチも住宅地からは少し離れた場所にある。学ぶべき点を見出すには、寧ろ良い条件か）

「けっこう遠い……」
　道すがら、立地の悪さを身をもって知る桜だった。
「ええと、このへんだと思うけど……、あ、あれかな？」
　背の高い金髪の男性が入っていくビルに、【cat nap】の看板があった。
　おそるおそる店内へ足を踏み入れれば。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
　生で見るといっそう可愛らしい制服のメイドさんたちに出迎えられた。
（いいなあ、私も着てみたい……）
　桜はどきどきしながら声を振り絞る。
「あ、あの！　一日メイド体験を申し込みたいんですけど……中学生でも大丈夫ですか？」
　ダメならダメで、また今度（高校生になってから）再挑戦すればいいと割り切りつつ。
「いいよ。中学生の職業体験も珍しくないし。わからないことがあったらどんどん聞いてね」
　店長のＯＫが出て、桜の表情がぱあっとほころんだ。　
　さっそくサイズを選び着替えてみる。