増えるまたたびメイトの謎｜リアクション

増えるまたたびメイトの謎

　教室を後にして、保健室に向かいながら２人は推理や推測を話し合う。円はまたたびメイトを口にしつつ、聞き込みから導いた推測を述べた。
「んー、その弥栄くんって人が通った後に落ちてるっぽいねー。やっぱり、もれいびなんじゃないかなぁ」
「俺もそう思う。……って、食いながら話すな」
　口元についてる、と指で示せば円は慌てて拭い、それを見ながら刀が言葉を続けようとしたが、廊下に落ちているまたたびメイトを見つけた。そつなく拾い上げてじっくり観察したものの、値札は無い。どうやら、どこからの店から転送されたものではないらしい。
「欲しいものを生産するろっこんだとすると、先輩の欲しいものがこれなのか？」
「うーん、どうだろう？」
　円が首を傾げつつねこったーを見ていると、拾った場所についての書き込みがあった。
「確かに、この辺りによく落ちてるっぽいねー。……あっ」
　円が声を上げたのは、新しい書き込みがあったからだ。どうやら、北校舎の方へと続いているらしい。
「聞き込みしながら、行ってみるか」
　刀の提案に、円も１つ頷き、またたびメイトを飲み込んでぽつり呟く。
「それにしてもフルーツ味かー。チョコ味も食べたいなー」
「俺はチーズ味だな」
　円の持っていた分から１つ取りながら刀が呟いた。

　――北校舎３階・図書室前

　カサリ、という物音に、真辺伸幸が顔を上げた。不思議に思ってあたりを見渡すと、またたびメイトが落ちている。角が少し潰れているようだが、未開封の物だ。
「……ぬ？」
　拾ってあたりを見ていると、点々と幾つも落ちているではないか。それには思わず「あれやぁ」と声が漏れる。
「噂のはこれか」
　そう言いながら、弓弦原譲がまたたびメイトを片手に現れた。彼もまた件の噂について調べようとしていた１人である。
「ぬん、まだあるみたいだねぇ」
　もう１つ拾いながら呟くと、譲も「そうだなぁ」と別の場所に落ちていたものを拾う。そうしながらも、脳裏に過るのは、原因と思わしき渡辺　弥栄という２年生の事だった。彼が通った際、落ちたのを見たという話から、譲は少し考えてみる。
（渡辺先輩は『ため息を吐くとまたたびメイトが増える』ろっこんの持ち主じゃないか？）
　彼は日頃またたびメイトにはお世話になっている。勉強や読書の片手間に済むから、という理由で昼食にいつもこれを食べていた。しかし、こんなに落ちているのは見た事がない。眼鏡を正しつつ観察していると、
「ぬーん、やぁ、どこまで落ちてるのかねぇ？」
「……辿ってみよう」
　伸幸が借りた本の上にまたたびメイトを置きつつ、辿り始める。それに譲も同行する事にした。そうすれば、噂の先輩に会う事ができるだろう、と。２人で歩いている内に、ぽつり、と伸幸がいう。
「まるでヘンゼルとグレーテルだねぇ。たくさん買った人が落としたのかなぁ？」
「それにしても落ちすぎだと思うがな」
　そうだったらサンタさんみたいに袋に穴が空いてたのかな？　と首をかしげる彼の横で、譲はなんとなくまたたびメイトの落ちている階段を見つめる。
（このまま進むと、どこに行くんだろう）
　２人はとりあえず、またたびメイトを拾いながら、辿っていく事にした。そうしながらも、伸幸は「落とした人に届けてあげたいねぇ」と呟いた。
　落ちているまたたびメイトを拾っているうちに校舎内をふらふら彷徨う事になった２人だったが、ふと、譲は足を止める。
（そういえば、噂ではだが……渡辺先輩は最近かなり疲れているらしいな）
　その事と一緒に思い出したのは、嘗ての自分の姿だった。異母妹の世話に勉強に習い事、とどれもこれも必死に頑張った。頑張って、無茶をしていた。
（そうすれば、あの人も優しくしてくれるんじゃないかって……馬鹿な期待をしたものだな）
　継母の事を考えると、複雑な気分になる。一方、妹の方は（譲が逃げ出すほど）なついているのだが……。
　なんだか、感傷的になったな、と我に返った時。伸幸が不思議そうに譲を見ていた。譲は、「なんでもない」と言うとメガネを正して平静を装った。

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