たのしい世界征服｜リアクション

たのしい世界征服

■イタズラ２：眠れる町の美女
　お寿司に軽くトラウマが出来た山田山雄（４８歳婚活中）が新たに見つけた楽しみは枕選びだった。
　人生の三分の一はベッドの上で過ごしているんですよというセールス番組の文句に踊らされ、サンバのリズムでお値段以上のナントカさんから枕を買ってきた彼だが……。
　思えば明日は早いのだ。日が昇る前から起きて会社に行き、頼まれてもいないのに仕事をするのだ。当然タイムカードは定時と同時に切る。なんのためのカードだよってくらい同時に全部きる。
　眠る前から気分が重い山田さんだが、眠らないわけには参りませぬ。
　あれやこれやの支度を済ませ、新しい枕でベッドに入る。
　おっと待ってくださいな。一度巻き戻してご覧頂きたい。
　『あれやこれや』の辺りで全身黒タイツの人が玄関からそーっと忍び込み、時計を何か別のものに交換しているではありませんか。
　それに全く気づかない山田さん。
　犯人は気づかれること無くサクッと出て行くがその背中には『悪の秘密組織スリーピングクロック』と書いてあるではありませんか。
　ここまで堂々と悪を名乗るのです。きっと大変な時計に違いありませんね。
　そうとは知らずにお休みなさーいと言ってナイトキャップかぶってお布団に入る山田さん。
　時計は周り夜は巡り、起きるべき時間がやって参りました。
　ジリリリリと鳴るはずの目覚まし時計から鳴るのは、なんと爽やかな水のせせらぎ。
　小鳥の鳴き声とそよぐ森の葉。気持ちを静めるようなピアノの音に、山田さんはむーにゃむにゃと言いながら寝返りをうつばかり。
　寝言で『もーたべられないよー』と言いながら眠ること約三時間。
「はうあ！？」
　飛び起きるも時間は大きく過ぎている。
　今から家を出れば大体定時に到着するってえ時間だ。
　山田さんや慌てて家を飛び出して、駅へダッシュするのだった。

　そんな山田さんを遠くから双眼鏡で眺める女ボス、佐藤瀬莉の姿があった。
　なんで女ボスとわかるかって、彼女の周りで大量の黒タイツ集団がうちわで仰いだりお茶を入れたり肩をもんだりしているからである。これが女ボスじゃなかったら黒タイツが好きなセレブかなにかである。
　瀬莉は羽根がふわふわついた扇子をびらっと広げると、ソファーから立ち上がった。
「日々苛烈な低賃金重労働で眠ることすら叶わぬブラック労働時代の今日」
　タイツがつかつかやってきて、銀のトレーを持って跪く。
　トレーの上には、山田さんちにこっそりとセットされた時計があった。
「せめて眠るときぐらい、心地よく眠らせるのだ！」
　こうして、悪の秘密組織スリーピングクロックによって全国のカチグミサラリマン（非誤字）の皆さんは毎夜ぐっすりと眠り、出社時間ギリギリにやってきてはやけにスッキリした顔でお仕事を始めるようになったのだった。

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