たのしい世界征服｜リアクション

たのしい世界征服

■イタズラ１：自炊ヒーロークロセルさん
　マジメ世界の住人、山田山雄（４８歳独身）の人生唯一の楽しみは、仕事帰りにスーパーでお寿司を買って帰ることである。
　お茶をいれ、パックを開き、小皿に醤油をひとたらし。
　準備を終えたらお寿司（マグロが大好き）をつまんで――。
　おっとここでご注目頂きたい！
　お寿司のネタとシャリの間にはちょっとあり得ないくらいのワサビが塗ったくられているではないか。
　こんなものを口に入れたら脳天直撃。
　そして輝くからのウルトラからのソウルである。
　と言うわけで例のテーマを脳内で流しながらご覧頂きたい。
　ぱくり。
「ハァイ！？」
　白目をむいて悶絶する山田さん（趣味はソーシャルゲームへの課金）。
「み、みず……」
「はい、お水ですよ」
　おお、なんということか。
　どこからともなく現われたクロセル・ラインツァートがコップに入れたお水を山田さんに差し出したではないか。
　水をごくごくぷはーした山田さんは、生まれたての子鹿みたいなフォームで頭を下げた。
「あ、ありがとうございまふ。あなたのお名前は……」
「フッ……」
　前髪をピッと二本指で払うと、彼は最高の決め顔で言った。
「クロセル・ラインツァートっ！」

　クロセル・ラインツァート。
　彼はマジメ世界に苦しむ人々を救う正義のヒーローなのか。
　その実態を検証すべくムービーを巻き戻してご覧頂こう。
　時間は山田さんがお寿司を購入する５分前。
　店頭に並べられる筈のパックを開き何者かがわさびチューブを突っ込んでいる。彼が悪者なのか！？
　全身を黒いタイツで顔まで覆っているが、悪者なのか！？
　背中に『辛党』って書いてあるけど、悪者なのかぁ！？
　おっとそのパックを山田さんが買っていってしまった。すごく悪い笑顔を浮かべる辛党の全身タイツマン。
　そんな彼に。
「あ、ご苦労様ですー。またよろしくお願いしますー」
　札束を渡す、クロセル・ラインツァート！
　彼はニヤリと笑うと、カメラレンズを手で覆った。
「平和はヒーローの目標。しかしヒーローになるには平和であってはならないのです。そう、俺は自分で悪を作り出し、ヒーローとなる……！」
　かくして、自転車のサドルを盗む全身タイツや扉に黒板消しをセットする全身タイツや道ばたにバナナをセットする全身タイツを自ら雇っては倒し雇っては倒し、彼はクロセルファン予備軍を名実ともにクロセルファンへと変え、スターの階段を駆け上がっていくのであった。

このページにイラストを設定する