ボウリングしようよ！｜リアクション

ボウリングしようよ！

（ボウリングなんて久し振りね）
　圭花はレーンに向かいつつ、ちらりと隣の市子を見た。
　結局付き合う形になった市子。所在無げにプレイ中の団体や倒されるピンの様子を見ている。
「イベント中で安いんだって」
「ああ、だから人が多いのか」
　納得する市子。
「それに誘うのも、理由がないよりこういうきっかけがあった方が……なんて」
　聞こえないよう小声で呟いて、圭花は道具をレンタルする。
「それじゃ、ボール選んだらストレッチでもしましょうか」
「……ああ」
　慣れた感じの圭花に倣い、市子もぎくしゃくと道具選びや手首の柔軟を行う。
　これで両者の準備は整った。
「……さて」
　ボールを手に、いかにも「できそう」な雰囲気を漂わせながら、圭花は言った。
「まずはキャリアの違いを理解してもらって、それから――
　や・さ・し・く、レクチャーしてあげる」
「へいへい」
　宣言に、市子は肩をすくめるしかない。
「で？　キャリアってどんだけなんだ」
「そうね、小学生以来になるかしら」
「――――――――は？」
　自信満々に言う圭花に、市子は一瞬、目を丸くして固まった。
　圭花は16歳である。
「それで、得点……スコアか？　どれくらいだったんだ？」
「さあ」
「さあって、おい」
「悪くはないわよ？　当時のことは全然覚えてないけど……それはつまり、外した記憶もないってこと」
　逆にそれは、当てた記憶もまるっきりないわけだが、市子はあえてツッコまないことにした。
「……そーいやこーゆーヤツだったな」
「何か言った？」
「いやなにも。ワーイタノシミダナー」
　呆れと苦笑を混ぜた棒読みで、市子は圭花の第一投を見守る。
「……ほっ」
　球を手にした腕が、軽やかに弧を描く。
　フォームはやたら綺麗――というか、十二分に恰好つけて圭花はボールを送り出した。
「へー、綺麗じゃん」
　やるからには見取り稽古と観察していた市子も、フォームの美しさには素直に感心する。
「綺麗きれ……」
　そして球の方はと目で追えば、『ゴッ、ガガッ、ゴトン！』と、レーンへ着地するやすぐさま一直線のレール上を移動し、ピン脇の闇へと消えていった。
「………あのさ」
　結末に、市子は神妙な面持ちで圭花を見やる。
「まだあんまルール把握してねーんだけど今のって確かガーｔ」
「今のは練習だから」
「でも」
「今　の　は　練　習　だ　か　ら」
　有無を言わさぬ笑顔で市子の指摘を封殺すると、圭花は静かに席に着いた。
（……今、思い出したわ）
　市子からは見えないようにしているが、その顔に当初のドヤ顔成分など微塵も残っていない。
（私、ボウリングもド下手だった……！）
「あたしの番すね」
　一方の市子は、さきほどの圭花の所作を思い出しつつ立ち上がる。
「やってやんよ」
　ボールを振り上げ、前に歩きながら投げる。
　そう、たしかこんな感じ……
「あ」
　ゴン。
　手からすっぽ抜けた市子の球は、レーンに胴体着陸を果たした。
　勢いが完全に殺されたボールは、ゆっくりごろごろ転がり、やがてガーターを下っていく。
「……」
　悪戯した猫みたいな顔で、圭花を振り向く市子。
　それを迎える圭花の顔も、どこか冴えない表情で。
　なんとなーく気落ちしたテンションで、二人の1フレーム1ボックスは終わった。