マジコーネ大陸記｜リアクション

マジコーネ大陸記

「ここまで来たら安全だ」
　リョウは屋敷の敷地から出ると、そこでハジメを下ろした。
「火事で野次馬も大勢いる。それに紛れてさっさと逃げるんだ」
「はい……あの」
　ハジメは黒装束姿の彼を見た。
「ありがとうございました」
「いいさ……本当はその手の書類が欲しかったんだが」
　ここに来るまでの間、ハジメは問題がない程度に事情を話している。今後の予定を聞いて、リョウはハジメに任せる事に決めた。
「コトが予想外に大きくなった。この方がじいさんも納得するだろ」
「じいさん？」
「こっちの話だ……気を抜くなよ」
　リョウはそう言って闇の中に消えていく。ハジメにはどういうことか分からなかったが、今は行くべきところがある。
「おねーちゃん、待ってて」
　ボタンの待つ酒場へと、ハジメは走り出す。

「――クク、見つけたぜ！」
　路地を走るハジメの姿に、嗤う男がいた。
　ケンウッドだ。
　気付かれないよう、ハジメの後を追う。
（クソムカツク黒い奴は見失ったが、奴と一緒にいたあのガキをまず殺してやる！）
　その次は、あの黒い奴を殺す。
　それが終わったら、ついでに町の奴ら全員を殺す。
　暗い愉悦に浸りながら、ハジメを追いかけるケンウッド……その前に立ち塞がる影があった。
「……テメェ」
「よぉ、酒場以来だな」
　蝶仮面を指で回しながら、リュウジが仁王立ちしていた。
「ちょうどいい。先にテメェから血祭りにしてやるよ」
「そいつは無理だな」
　シリアスな声音でそう言ったリュウジの半裸が、聖なる力に包まれる。一瞬後、そこに立っていたのは光り輝く鎧を纏った騎士だった。
「な……」
「ある時はスケベな冒険者『リュウジ』、ある時は（変態）怪人『RYU☆ZIN』……しかしてその正体は聖印騎士『青竜』！　それが俺だ」
　聖印騎士……その名を聞いた犬使いが、青ざめる。
「賞金首ケンウッド・クロスナー。四十三件の強盗及び殺人、ならびに教会施設への器物破損容疑で裁きを下す」
「う、うおおおお！？」
　犬使いが反転、脱兎のごとく逃げ出す。路地から出ると、目に付いた人間を羽交い絞めにする。
「来るな！　こいつを殺すぞ！？」
「……往生際が悪いぜ」
「うるせえ！」
　人質に剣をつきつける犬使いは、次に起きた出来事を理解できなかった。
　剣が砕かれ、地面に叩きつけられる。
「訂正箇所がある。お前に俺は殺せないよ」
　それが人質――シュウが行ったことだった。
　その姿は記者のものではなく、リュウジと同じ騎士姿となっている。
　彼もまた、聖印騎士の一人だったのだ。
「あと、罪状に騒乱罪が抜けてるな」
「こんだけ揃えばどっちにしろアウトだろ……あっちはどうする」
　リュウジは、ハジメの去っていった方角を見やる。シュウは首を振った。
「先を越されてしまったのは驚いたが、俺が受けた密命は条約違反の調査と通報だけだ」
「俺もさ、新人君。枢機卿のダンナは、むしろ今回の情報提供者との関係の方が大事みたいだぜ」
　さてこれからどうなるか、と二人は道のさらに先にある店に思いを馳せた。

「永遠の休息の地」にある、＜たわむれる仔猫＞亭。
　今そこに、一人の少年が入っていく。
　近場の火事に騒然となる店内で、彼に気付いた少女が駆け寄り、抱きしめた。

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