未来に向かってにゃーっと準備｜リアクション

未来に向かってにゃーっと準備

○膝枕

「急に追加になってすみませんが、マイクをもう一本お借りしたいんです」
　ロベルトは担当顧問の相原まゆ先生に、校内の設備や使用する道具についての申請書を提出した。
　いつも明るいまゆ先生だが、書類に目を通す時は真剣な顔だ。無事通るだろうか、とそれを見ているロベルトも緊張してしまう。
「そうね、いいと思うわ。……機材の扱いは大変だけど、ケガのないようくれぐれも気をつけてね」
「はい、十分注意するよう徹底します」
「そうそう、後夜祭で料理を出してくれる、『うみねこ』さんや『somnium（ソムニウム）』さんとの打ち合わせもよろしくね」
「はい。では、いってきます」
　心配事が一つ片付き、ほっとしながらロベルトは職員室を後にして打ち合わせに向かった。
（メニューと、人数と時間もしっかり打ち合わせなきゃな）
　　
「うーん……原稿、どんなのがいいかなぁ……？」
　来島アカリは、一人机に向かい有志出し物の原稿を考えていた。
　かわいい名前と外見でたまに女に間違えられるアカリだが、れっきとした男だ。
　アカリが実行委員になったのは、ロベルトが実行委員長で大変そうなのを見て、手助けになればと思ったからだ。
　ぶっきらぼうだが、困っている人や友達のことは放っておけないタイプ、いわゆるツンデレな苦労人だ。
（表に出るのは恥ずかしい、けど……裏方仕事なら手伝えるかな）
　と考えたのだ。
　ああでもないこうでもないと悩み、どうにか半分くらい書けたところで、
「やあ、来島！」
　出先から戻ったロベルトが顔を出した。
「あれ、どうしたんですかロベルト先輩。あっちで別の事してたんじゃ……？」
「今一つ片付いたとこだよ、あとは会場設営の人員配置とか、原稿チェックくらいかな」
　そう言ってアカリの手元を覗き込む。
「どうだい？　原稿の方は順調かな。何かわからないところがあったら聞いてほしいな」
　アカリはロベルトにとって理想ピッタリの美少年だ。
　忙しい時こそご褒美がほしい、そんな思いでつい顔を見に来てしまった。
「んー、難しいですけど、忙しい先輩の手をわずらわせるの悪いですから。無理しないでくださいよ。むしろ、俺にやってほしいことないですか」
「大丈夫、君は一年だからね！　来年になったら後輩にもそうして……ん？　そうだな……」
　アカリの言葉にロベルトが反応する。
「やってほしいことか……そうだな……膝枕……かな」
「ひ、膝枕……？　なんですか急に……」
　想定外の返事にアカリは慌てる。
「準備終わったんですか？」
「まだ残ってるけど、ちょっと疲れちゃってさ」」
「そりゃ疲れてるでしょうけど……もー、仕方ないなぁ……ちょっとだけ、ですよ？」
　しぶしぶ、という様子でアカリは膝を空けた。
　その膝の上に、ロベルトがホクホクと頭を乗せ目を閉じる。
「うん、美少年の膝枕は癒されるね……！　世界の宝だよ……！」
「まったく……」
　呆れた調子のアカリの声にもめげず、ロベルトは寝息を立て始めた。
「え、寝ちゃったんですか？」
　アカリがほっぺをぷにぷにとつつくも、ロベルトは反応しない。
「よく寝てるな……？　……だいぶ疲れてたんじゃないですか」
　ロベルトが眠ったと見るや、アカリの声音からトゲが消え、素直なものとなった。
「もー、頑張り過ぎです、よ……？　無理しないでください、って言ったのに。先輩、たまに大丈夫なフリして無茶する、から……」
　実は、ロベルトは寝たふりをしてこれを聞いていた。
（来島……！　本当は僕の事を思って……！）
　胸が熱くなる。
　でも今更起きていたなんて言えないし、寝たふりを続けなくては……と思ったロベルトだが。
　疲れていたのは、本当だった。いつの間にかロベルトの意識は深く沈んでいく。
「……おつかれさま、ロベルト先輩」
　ロベルトを起こさないように気をつけながら、アカリは集中して原稿を書いた。

「にゃーっ」と言う声が遠くで聞こえた気がして　はっ、とロベルトは我に返った。
（……寝たフリするはずが本当に寝てしまった……）
「おはよう、ございます……目、覚めたなら早く起きてくださいよ、結構重いんですからね？」
　また呆れた口調で渋い顔になっているアカリを見て、ロベルトは笑ってしまった。
「なんで笑ってるんですか、むー……」
「起きたくないなあ……」
　名残惜しそうなロベルトの頭を膝で押し上げるアカリ。
「ほら、あとちょっとで終わるんでしょ？　俺も手伝います、から……もうちょっと頑張りましょ？」
　ちょっとだけデレたかな？　とアカリを見つめるロベルトは幸せだった。

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