【バレンタイン】フェアリィテイルとチョコレート！｜リアクション

【バレンタイン】フェアリィテイルとチョコレート！

「よし、シャッターも閉めたし……お疲れ様でした、柳霞さん。今日は手伝いに来てくれて本当に助かりました」
　洋菓子店『Raton』のバレンタインは盛況のまま閉店時間を迎えた。少し多めに焼いたケーキも全部売れて、売り上げも上々だ。
「これくらい、いつでも手伝うよ」
　大好きな人の手伝いができるのは嬉しい事だから、と胸の内で呟きながら柳霞が微笑む。温かい飲み物を淹れると、２人は景貴の部屋へ向かった。ベッドに腰掛けて、今日の疲れを労うように２人だけのゆっくりとした時間を過ごすのだ。恋人同士のバレンタインはこれからなのだから。
「今日もお疲れ様、それから……」
　柳霞が部屋に上がってからずっと気にしていた鞄を手にし、中から可愛くラッピングされ、綺麗にリボンが掛けられた箱を取り出す。
「あのね、バレンタインのプレゼント……ずっと何にしようか考えてて、本職の景貴さんにお菓子を贈るのは勇気がいったんだけど……」
　はい、と景貴へ渡すと優しい手がそれを受け取ってくれた。けれどいつまでも開ける様子がなくて柳霞は何かしてしまっただろうかと景貴へ声を掛けた。
「どうしたの？」
「あ、すみません。つい嬉しくて……その、眺めてしまいました」
　何かあったわけではなかったのだと安堵すると共に、景貴が見せた可愛らしい一面に柳霞はつい笑みを浮かべてしまう。
「開けてみてもいいですか？」
　もちろん、と柳霞が頷くと景貴は丁寧にリボンを解き、包装紙を取って箱を開けた。中に入っていたのは猫と熊の顔型をしたクッキーにチョコレートで様々な表情や装飾をデコレーションした手作りのバレンタインチョコだった。それを見て、景貴はますます嬉しくなってしまって暫くの間眺めてしまい、また柳霞に声を掛けられて顔を上げた。
「景貴さんみたいに立体は無理だけど……可愛くできたとは思うんだ。だめ……だったかな？」
　その声には不安が滲んでいて、景貴は慌ててチョコを眺めていた理由を話す。
「すみません、これには理由がありまして……こういう職業なので、あまりお菓子を頂くという機会がないもので……つい、浮かれてしまって……恥ずかしいです」
　浮かれるほど自分からのチョコが嬉しかったのだとわかると、柳霞はほっとしながらも納得していた。
「あー…そうだよね、私も本職の人に本職のものを贈るのは躊躇っちゃうもん。でもそんなに喜んでくれるなら、勇気を出してよかった。味は敵わないと思うけど、愛情はたっぷりだよ！　あとね、猫と熊にしたのは……その、私達をイメージしてなんだけど」
　作った後も、渡していいのか少し悩んだ柳霞としては、逆の考えもあるんだとなんだか不思議な気分だ。それでも、嬉しそうな景貴が目の前で自分の作ったチョコクッキーを摘んで猫と熊、一枚ずつ食べてくれたのはじんわりと嬉しくなる。
「とても美味しいです。お世辞なんかじゃなくて、本当に……」
「本当？　よかった！」
　隣で喜ぶ彼女を見て、愛しさが込み上げるのを景貴は感じていた。
「柳霞さん、ちょっと……ええと、ここに座ってもらってもいいですか？」
　景貴が少し照れた様に隣に座っていた柳霞に、自分の前……景貴を背もたれにするように座って欲しいとねだる。柳霞も隣に座っているよりもそうやって座った方が景貴の温もりを感じ取れる……ちょっと恥ずかしいけれど言われるままに座りなおした。
「チョコレート、とても美味しいです。柳霞さん、ありがとう」
　感謝の言葉と共に、後ろから回ってきた腕が柳霞をふわりと抱き締める。その優しい温もりに寄り掛かりながら、
「こちらこそ、いつも美味しいお菓子と優しさをありがとう……景貴さん、愛してるよ」