【バレンタイン】フェアリィテイルとチョコレート！｜リアクション

【バレンタイン】フェアリィテイルとチョコレート！

　本日のバレンタインが土曜日だからといって、働いている人がいないわけではない。寧ろ土日や祝日、イベントのある日に働く人がいるお陰で、楽しく過ごせる人がいることも忘れてはいけないのだ――。
　そして大田原いいなも、本日働いている人の１人である。シーサイドタウン駅近くにあるメイド喫茶、「bonheur」にて、ろっこんの力を使い『デネボラ』という源氏名でオーダーやレジをメインにしつつ、時に彼女が同居させてもらっている叔母が営むお好み焼き屋で扱き使われたスキルを活かし、厨房にヘルプに入ったりと大忙しなバイトをこなしていた。
　長い髪をお下げにし、緑色のロングスタイルのメイド服に白いエプロンという姿がお客さんにも受けていて、デネボラ目当ての常連さんもいるほど。
　もちろん中にはしつこいお客様というのもいるもので。

　溜息交じりに床に零したチョコシロップを片付けながら、
「出禁……は、難しいか……いつもいっぱいオーダーする『客』だし」
　逆にそのしつこさにはある意味頭が下がるというものなのだが、ちょくちょくご帰宅した際にセクハラ紛いの行為をされるのだけはどうにかならないものか――でも。
「男性恐怖症、こんなに克服できるようになったのは……」
　ことある毎に構ってくる『あの人』や、ある意味自分の転機にもなった『あの人』のお陰だったりするのかな……とまで考えながら掃除を終わらせようとした時だった。
「デネボラさん、ちょっと厨房の方手伝ってもらえるかな？」
　と、同僚から声が掛かる。今日はバレンタインだから暇だということはなく、寧ろご帰宅なさる旦那様方が多くて忙しいほど。大抵のフードメニューが作れるようになった彼女にお鉢が回るのは当然と言ってもいいだろう。
「バレンタインスペシャルパフェのオーダーですね？　私、掃除道具片付けたら取りかかれるんで、やります！」
　にっこりと微笑んで、掃除道具を片付けに中へと入る。叔母の手伝いをした成果がこんなところで生きてくるとは思わなかったと考えながら、手を洗ってから厨房へと向かった。でも、厨房の仕事もってなると……その分お給料上げて貰えたりしないだろうか？　と思うのは、もしかすると叔母の影響かもしれないなんて考えながらバレンタインスペシャルパフェに取り掛かる。
「えっと、専用の器がこれね」
　それは１リットルは入ろうかという大きさのビールジョッキのようなガラス製の器。そこにまずチョコシロップを流し込み、バニラアイスを敷き詰める。
「結構、力が要るわね、これ……」
　それからコーンフレーク、その上にまたチョコシロップを掛けて生クリームを下地が見えなくなるほどたっぷりと。生クリームの上には苺やキゥイ、バナナなどのフルーツが外側から綺麗に見えるように並べていくのだ。
　並べ終えたらチョコレートアイスを５センチ程入れて、生クリームをくるりとひとまわし。チョコシロップを掛けてまたバニラアイスを敷き詰め、生クリームを敷いて……チョコシロップを掛けたら漸くジョッキの上部分をデコレーションだ。
「生チョコと、チョコレートケーキと……フルーツにっと……」
　手際よく飾付け、生クリームをこれでもかと載せていく。そして最後にハートの形をしたチョコプレートを載せれば完成だ。
「よし、出来たっと♪　スペシャルパフェ上がりました、どのテーブルですか？」
　その出来栄えに満足気に微笑みながら、いいながテーブルへと運んでいったのだが……どうやらオーダーミスだったようで、誰も注文していないという想定外の事態となってしまうハプニング。厨房に戻ってきたいいなが、どうしたものかと目の前の自信作でもある大きなパフェを睨む。
「あ、そうだわ」
　転んでもただでは起きないわよ、デネボラさんは！　とばかりに、いいなはパフェの写メを撮るとそのままお店のブログへとアップする事にした。
「まさかのオーダーミス……っと」
　そのままなタイトルを付け、バレンタインスペシャルパフェの売りを書き込み投稿完了だ。このパフェをどうやって片付けようかと考えながら、ふとスマホの画面に映るパフェの写真を見る。
「今どこにいるかもわからないけど……」
　あの人に、メールを。
　生存確認がてら、と呟いてブログに上げた写メをメールへ添付する。送信の文字をタップして、ちゃんと送れたかを確認するとスマホをポケットへと仕舞った。
「……うん、季節感、感じるよね」
　パフェの一番上に燦然と輝くハートのチョコレートを指で摘み、甘くてちょっと苦い味をいいなはそっと噛締めた。

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