空飛ぶチョコレイトハート｜リアクション

空飛ぶチョコレイトハート

●ハートに火をつけて
　ある日ハート型のチョコレートが空を飛んだ。
　不思議に慣れっこの酒浸朱蘭とて、放置できぬ事態である。
　何が放置できないって……てきないかって……いわれても……。
「なにがっ、なんだかっ、わからないんだぜー！」
　ぜえぜえ息を切らし、顔を真っ赤にしながら走り続ける朱蘭。
　一方のチョコはといえば、あっちへフラフラこっちへフラフラでどこへ行きたいんだかさっぱり見当もつかないありさまだ。
　なんだか宴会場でも探している雰囲気だが……。
「こうなったら、奥の手だぜ！」
　懐からミネラルウォーターの入った瓶を取り出すと、朱蘭は瓶に十字線をきった。

　ろっこん水はそう簡単に進めていいもんじゃない。なぜなら酔っ払うからだ。
　けど人によっては食いついてくれることもあるようで、八十八旗信彦が胸から大量のミニチョコをあふれ出させながら宴会に混ざってきた。
　他にもあの子やこの子やその子なんかも、公園の芝生に座ってろっこん宴会が巻き起こる。
「おまえ胸から大量にチョコ流れ出てるけど、いいんだぜ？」
「止めようとしてもあふれ出るのが俺、だからね！」
　歯と目とカードを光らせて振り返る信彦。
　もうその間もひたっすらチョコが飛び出してはあちこちへ無差別に飛んでいくのだが本人はお構いなしである。むしろもっと飛べくらいの姿勢だった。
「俺の愛がレディ達に伝わってしまうのは……もう止められない」
　なんかろっこん水に酔ってるのか状況に酔ってるのかわかんなくなってきた所で、朱蘭ははたと我に返った。
「あい……？」
「イエス、愛（LOVE）」
　仮に。
　仮に朱蘭から飛び出したものが愛だとして。
　あれは一体、どこに飛んでいこうとしたのだろうか。
　杯を取り出し、ろっこん水を注ぎ込む。
　傾けようとすると、ひたりとチョコがろっこん水に飛び込んできた。
「……分かってたけど複雑な気分だぜ」
　ろっこん水大好きだな自分。
　と、思う一方で。
　大好きなものは他にも沢山ある。
「……」
　両親や、友達や、学校でのいろんなことや……ある男のこと。
　返事は待ってくれると言っていた。
　彼にしては少し臆病なくらい、こちらに触れるのをためらっていた。
「なんか、酔いがさめてきたぜ」
　もっと呑めば酔えるだろうか。
　ごまかせるだろうか。
　ごまかして、いいのだろうか。
　杯を傾ける手を止めて、考える。
「でも呑まないのも、自分らしくないぜ」
　朱蘭は思い切ってろっこん水を飲み干した。
　胸が熱い。
　燃えるようだった。

　今日は二月十日。
　バレンタインデーまで、あとすこし。

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