進撃スイーツ　ーValentine war ー｜リアクション

進撃スイーツ　ーValentine war ー

後半
　恵御納夏朝がグミだらけの川へくると、目の前に棒のようなものがぶっささっていた。よく見ると長い足で、掘り起こすと、何故か気絶した尾鎌蛇那伊だったりする。
（まさか……っ？！）
　一体彼に何があったかはさておき、近くに居た羽生碧南と共に蛇那伊を川岸まで運び、改めて状況を確認した。
「フィギュアの進路が、変わった？」
「学校から、お風呂屋さんに向かってるっぽい？」
　碧南が首を傾げる傍ら、視力が向上していた夏朝は、その進路を確認する事が出来た。そして、ちらりと見えたのはサンマさんの形をした何か、である。
　それは御巫時子と五十嵐尚輝が作ったウエハース製サンマさんであった。２人はそれを作って暖かい場所である旧市街の銭湯『ねずの湯』へと向かわせるつもりだった。
（三夜湖がチョコレートフォンデュならよかったのですが……）
　ろっこん『鳥の囀り』の進化能力で鳥になった時子は、温かい場所を空から探した。その結果が『ねずの湯』だったのである。彼女は尚輝と共に石（クッキー）を食べ、必死にウエハースでサンマさんを作り、並べたのだった。
　並べ終わった２人は、戦況が見えやすいアパートの屋根の上にいた。偶然にも避難していた瓜山メイも一緒である。
　メイはびくびくしつつも「これは夢、これは夢」と自己暗示をかけつつ様子を見ているようだった。
「メイ先生、大丈夫ですよ……。皆がきっと……」
　時子が安心するように、と手を握るとメイは申し訳無さそうに頭を下げる。そんな２人の側で、尚輝がなにかメモを取りながら戦況を見ていた。

　八神修と青山絢は町田清から聞いたフィギュアの弱点を、夏朝は変更となったフィギュアの進路をねこったーで拡散した。それを受け取った面々は各々フィギュア討伐のため動き出す。

「青山、アスファルトを！　こいつを食べれば腕力が上がる！」
「わ、わかったわっ」
　修に勧められた絢はまたたびメイトとなったアスファルトを齧り、飲み込む。味わっている余裕など、今の彼女にはない。
　その背後では修が手ごろな電信柱を引っこ抜き、フィギュアを待ち構えていた。
「バレンタインチョコは『想い』だ。動くのも、製作者の想いが根幹かもしれない」
　修はそういいながら合流した清一郎と目配せ。だが清一郎は修の姿に思わず呟く。
「えらいシュールやな。頭脳派の八神がそれやっとると」
　そう言いながらも清一郎は既に戦闘モードに入っている。彼もまたまたたびメイトと瓜山メイお手製のスイーツで身体能力が上がっている。
　３人が『ねずの湯』付近で待ち構えていると、ずしん、ずしん、とフィギュアが接近してきた。

「えいしゃおらあああっ！」
　相変わらず、アグラーヤ・ストゥーリナは立体機動を見せていた。途中でお菓子を補給しつつ、彼女はくるり、と硬質ブレードを閃かせる。彼女は切り刻む事と立体機動が楽しくて他人の声が聞こえていない。全力全壊を全身で楽しんでいるようだ。
　その足元では屑利執によって呼び出されたサラリーマン、沼田さんが体当たりをしていた。暑くなったのだろう、スーツを脱ぎ、ネクタイを外し、必死になって体当たりを続けている。
　汗を拭い、何度も何度も体当たりする沼田さん。へばる度に執が焼きメレンゲを口へと次々に放り混んで気力を回復させる。
「沼田、行きますっ！」
「がんばれ、沼田さーんっ！」
　執は相変わらず色々とメモを取り続けている。が、沼田さんはボロボロだ。メレンゲが強化するのは気力だけ。体力ではないのだ。
　そこへ合流した夏朝と碧南もまた、それぞれ行動を開始する。碧南は腕力、脚力をお菓子で強化し、その上打撃武器化したかりんとうを手にフィギュアへと向かう。
「悪いけど、これ以上は進ませないわっ！」
　普段は乙女ゲームが大好きで、たまに妄想世界へトリップしちゃう可愛いところのある碧南。だが、彼女は実力派のバスケット選手でもある。ディフェンス技を応用した動きで建物を駆け上がり、強力な一撃を与える。