進撃スイーツ　ーValentine war ー｜リアクション

進撃スイーツ　ーValentine war ー

「お疲れさん、夏朝ちゃん」
　やさしく安全な場所へ寝かせ、自分の上着をかけてやる。と、清一郎は再びフィギュアへと殴りかかる。
「そろそろ落ちろやあっ！」
「あわせるよっ！」
　そこに碧南も加わり、２人で同じ場所を攻撃すれば、大きな罅が入る。２人が離れたところで修がもう一度電信柱で同じ場所を突く。それにあわせ、絢も攻撃を繰り出す。だが、あと少し何かが足りない。
「……時間が無いわ。もう少しで倒せそうなのに……」
　絢は時計とフィギュアを見、小さく祈るように呟いたその時、瓦礫が吹き飛ぶ。よく見れば、フィギュアの足が『分解』された家屋を蹴り飛ばしていた。
「なん、だと……！？」
　修が思わず表情を険しくする。ずしん、と踏み出された足。修は電信柱を構えなおすと、フィギュアへと突貫。思いっきり足へと電信柱を振るった。

　メレンゲを食べさせられ、ぼろぼろの状態で体当たりを繰り返していた沼田さんが、息を切らせながらフィギュアを見る。自分は、何度倒れただろうか？　身体は悲鳴を上げている。もう、１歩も動きたくない。
「沼田さんっ、ほら、メレンゲだっ！」
　それでも執は沼田さんの口へと焼きメレンゲを突っ込み、身体に気力が漲るのがわかった。
「行ってくる、よっ」
　沼田さんは奮起して、フィギュアへと体当たりする。体が痛い。でも、気力だけはある。きっと明日は筋肉痛で動けないだろう、と彼が考えたとき、一陣の風が吹いた。
「足先を破壊すれば、バランスを崩せる筈だ」
　鉄の芯が入った竹刀を手に突貫する遥斗だった。彼は意識を集中して引き絞り、足先へと竹刀を打ち込む。鈍い音が響くも、罅が入るだけに留まる。
「まだ、足りないかっ！」
　２、３度竹刀を振るうも、まだ足りない。上空では相変わらずアグラーヤが立体軌道でフィギュアの気を引いている。
　額の汗を拭った沼田さんは、ちらりと腕時計を見た。そして、表情を険しくする。……制限時間のこり１分を切ったからだ。
「時間がないっ」
　修が焦った様子で叫んだその時、きらっ、と光る物が動いた。沼田さんだ。
「うおおおおおおっ！」
　沼田さんは奮起した。遥斗と修が傷つけた足へと渾身の体当たりを思いっきりかまし、そのまま向こう側へと転がっていく。
（これで倒れなかったら……）
　薄れいく意識の中、沼田さんは僅かに苦笑した。ひび割れた眼鏡が、彼の奮闘を語っていた。

　
「せ、先生！　あと１分を切りました……っ！」
　様子を見ていた時子が青ざめる。メイもまた表情を険しくし、息を飲む。だが、尚輝は静かに言った。
「アレは確か、ダイアモンド並の固さでしたか……。なら、引っ掻き強度は最高でも、靭性……割れにくさから言えば水晶と同じぐらいなのです。その上、比較的温かい場所へと誘導された。となれば、もう……大丈夫でしょう」
「「え？」」
　時子とメイがきょとん、としたその時。音を立ててフィギュアは倒れていた。みんなが切りつけた傷が、時子が選んだ場所が、フィギュアに勝利した瞬間だった。

「っ！　フィギュアは！？」
　意識を取り戻した夏朝が起き上がる。と、周りでは仲間達が歓声を上げている。そこから無事に倒せた事を知り、安堵した。だが……夏朝は見てしまった。
「僕の夢が……、夢にまで見た巨大フィギュアが……」
　清はその場に膝を着き、がくり、と項垂れる。夏朝はそんな彼を見、少し胸が痛むのだった。
「漸くお目覚めかいな。でもま、解決できてよかったわ」
　清一郎がそういってため息をつく。夏朝の傍らでは碧南が絢と喜びを分かち合っていた。
　アパートから降りてきた時子、尚輝、メイも一同と共に喜びを分かち合い、互いの健闘を称えた。

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