バレンタイン・チョコチョコ・キャンペーン｜リアクション

バレンタイン・チョコチョコ・キャンペーン

　バレンタインデーは手作り以外の選択肢だってある。去年まではバレンタインチョコレートを誰かに贈るということを考えたことはなかったが桃川圭花は「今年はそうもいかないのよね」とぽつりと呟いた。
　手作りもいいですよとアドバイスされながら、既存品を見つめる彼女は様々な包装を施されたチョコレートを眺める。
　プレゼントには包装も大切だ。物販を試食できると促される場所は、寝子高生で盛り上がりを見せているが――圭花がまず悩まし気に思ったのは『試食量』だ。
（これ全部試食していいの……？　ううん、でも、あの人に上げるチョコを選ぶ大切な作業だから仕方ない……！）
　乙女の悩み（カロリー）は闇が深い。どうにも悩まし気な彼女はいくつか選定したチョコレートを手にしたまま店員に促され席へとついた。
『あの人』の事を考えれば圭花の心もざわめきを見せる。「いらない」と言葉で否定されようが、あの人は『そういう人』なのだ。乙女がいくら悩ましく思っても、あの人はプレゼントをするだけで心躍らせ、不機嫌面を僅かに緩めてくれる。
　――それは、私だって嫌いじゃない。
　言葉にせずとも、心はざわめき躍り出す。チョコレートを食べる前から甘いものを口に含んだような顔をする圭花へと差し出されたのはサキリの紅茶。
　チョコレートとよく合うブレンドに一つ、礼を返して、どれにしようかと指先は揺らめいた。
　彼女の目の前で「うまい」「独特な味だ」とチョコレートを大量に食する遥斗が「これはいい」と絶賛するチョコレートがある。
　少し気にはなるが、どの商品なのだろうかと、ちらちらと幾度もう窺った圭花は遥斗が手にしたチョコレートに包み紙が存在しないことに首を傾いだ。
（……あれは？）
　瞬く圭花は、チョコレートに対しては造詣が深い。ニャイズの生チョコレートこそ私たちの舌のレーゾンデートルなのだといい切れるほどのチョコレートファンなのだから。
　仕方がないと没頭する中でも誰かがうまいと評価するものが選定対象に入るのは致し方がないことだ。
「良かったら、これも食べてみてね！」
　遥斗の前に並んでいたチョコレートを幾つか差し出すののこに圭花は作業のように、まさに、チョコレートのベルトコンベヤーという風に口元へと運んでゆく。甘味があるものや、遥斗が「チョコレートじゃない」と称したものなど風味は様々だ。
「ん、これはどこのチョコ？」
「それはみんなで作ったのよ」
　紅葉とまほろは顔を見合わせてその味の感想を知りたいのだとチョコレートマイスターへと微笑みかける。
　誰かのためにと懸命に作成されたチョコレートは既存品とはまた違った味わいで。成程、と幾ら呟いても呟ききれないほどに圭花は何度も繰り返した。
「まー仮に私みたいな料理下手が作ってもそれってあげる側のエゴでしかないと思うけど……思う、けど……」
「誰かのための料理はおいしいと思う。現に、これも、これも、うまい」
　淡々とチョコレートを口に運んだ遥斗に紅葉は「好きな人のために頑張ってお料理する人って素敵よ……羨ましいわ」と頬を赤く染め上げた。
　ああ、それだけでも圭花の心は揺らいでしまう。特別なものにしなくてはならないのだ。
　ニャイズのチョコレートだけではない。既製品のお気に入りのメーカーなんて目ではないほどに。
「……うん、ありがとう」
　義理チョコと友チョコを買っていこうと選ぶ彼女がこっそりと手にしたのは手作りの指南書だった。
　圭花のように「すてきな出会いがありますように」と笑みを溢す紅葉にまほろは小さく瞬いて「……素敵な出会い、あるといいね」と首を傾いだ。

「さー、他にもいっぱい食べてね！」
「ああ。チョコレートというのは深いんだな……訳アリと言っても失敗でも関係なく食べられる」
　まだまだ続くバレンタイン準備。感心する遥斗が口の中が甘くなったと食堂で大盛カレーを食べるのはまた、別のお話だ――

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あとがき

担当マスター：日下部あやめ
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バレンタイン・チョコチョコ・キャンペーン。
楽しくチョコレートを作っていただけたならば光栄です。
誰かのために、自分のために、作ってみたくて……沢山の『たのしい』で、皆さんのバレンタインがもっと良いものになればと思います。
ご参加ありがとうございました！

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