九夜山で天体観測｜リアクション

九夜山で天体観測

　果てしなく広がる、星空。
　展望台に着いた醒夜子は高倍率双眼鏡で星空を見上げていた。
「星のきらめく天空の破片……」
　夜空に輝く星々はまるで鉱石のように美しく、それはまるで藍を帯びたラピスラズリにパイライトを散りばめた巨大な天板のようで。
　醒夜子は自身がまるでラピスラズリの世界に閉じ込められたような、素敵な錯覚に陥っていた。
「星空が綺麗だねぇ」
　不意に声をかけられ慌てて振り向いた醒夜子の目の前に居たのは展望台に着いたばかりの寝太郎だった。
「そ、そうね。あの星はまるでトパーズのようね」
　人見知りスキルを発揮した醒夜子はなんとか言葉を絞り出したものの恥ずかしそうに顔を逸らしてしまった。
「それならあの一際輝く北極星はダイヤモンドかなぁ」
　寝太郎の言葉に思わず顔を上げる醒夜子。
「貴方よく分かってるじゃない」
「星座を鉱石に見立てるのは初めてだけどね」
　醒夜子の緊張も解けたのか、二人は一緒に星座を探すことにした。
　寝太郎は妹から借りてきた星座盤を取り出し懐中電灯を手に星空と照らしあわせてゆく。
「おおいぬ座α星シリウスはラリマール、こいぬ座α星プロキオンはロードクロサイト、オリオン座α星ベテルギウスは柘榴石……」
「冬の大三角があそこなら、それじゃあれは冬の大六角かなぁ」
　藍色のラズライトに金色に光るパイライトや白いカルサイトが共生して美しいラピスラズリを作り上げるように、様々な鉱石、もとい星々が共生してこの美しい星空を作りあげている。
　その事実に醒夜子はただただ感動していた。
「あ、あの人は……」
　そんな時、寝太郎は展望台の隅の方でベンチに座っている駿と時子を見つけ駆け寄った。
「こんばんは～。この前はありがとうございました」
「この前と言うと？」
　よく分かっていない様子の駿に寝太郎はふにゃりと笑い。
「大事な用事忘れてたの思い出させて貰ったので……あ、1年4組の猫島です」
「2年の佐伯だ。よろしく」
「菫青醒夜子よ。よろしくね」
「1年2組の御巫時子です。こちらは友達のヨタカさんです」
　そんな軽い挨拶を済ませると、四人と一羽は星空を見上げその時を待っていた。
「ヨタカさん、もうすぐ始まりますよ……」
　時子はヨタカさんを後ろから包むようにして抱きしめる。
「あ、流れ星……」
　最初の一つ目を見つけたのは醒夜子だった。
「綺麗……」
　時子はこの光景を自分の目に、心に焼き付けようとただ静かに空を見上げる。
　都会と違い視界を塞ぐものがないおかげで、視界の全てが星空に埋め尽くされていた。
「凄いですねぇ……」
　寝太郎もまたこの壮大な光景に目を奪われていた。
「そういえば流れ星が消えるまでに3回お願いすると叶うって言うよな」
「お願い事したくなりますね」
　時子は両手を合わせぎゅっと握ると星が流れる瞬間目を瞑り心の中で。
（この時間が長く続きますように……）　
「……何を願ったんだ？」
　駿の問いに時子はにっこりと微笑むと。
「内緒ですっ」
　首を傾げる駿を見て楽しそうに微笑む時子、そんな二人のやり取りをヨタカさんが不思議そうに見つめていた。

　やがて時間も経ち皆もそれぞれ帰宅することになった。
「それじゃおやすみ。暗いから気をつけて帰るんだぞ」
「はい、駿さんもおやすみなさい」
　ロープウェイで帰る寝太郎、駿、醒夜子と別れ時子はヨタカさんと一緒に人気のない場所へと移動した。
「ヨタカさん、散歩の続きをしてから帰りましょう」
　荷物を鞄にしまい、来た時と同じような黒い鴉の姿へと変身するとそのまま夜空へと飛び立った。
　星の海を泳ぐかのような錯覚を覚えつつ、時子は真っ直ぐ家へと向かったのであった。

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