九夜山で天体観測｜リアクション

九夜山で天体観測

　ロープウェイに乗る寝太郎は同じ車内の反対側に座っている人物をぼーっと見つめていた。
　寝太郎の視線の先、グレーの長髪で大人っぽい雰囲気の人物、佐伯駿は窓から外を眺めていた。
　服装はコートとデニムを合わせ首にはマフラーを巻いている。身長は寝太郎より少し高いくらいだろうか。
　一人で来たのだろう、誰かと話したりする様子もない。
　しばらくしてロープウェイを降りると寝太郎は人混みで駿を見失ってしまった。
　辺りを少し探してみたがどうやらもうここには居ないようだ。
「さっきの人どこかで会ったような……」
　また会えば思い出すかもしれない、一先ず寝太郎は展望台へ向かうことにした。
　一方駿は一足先に展望台に到着していた。
　人混みを避け隅の方で柵に寄りかかりながら空を眺めていると何かが飛んでいるのが見えた。
「あれは……鳥か？」
　二羽の鳥はそのまま大きく旋回すると人気のない茂みの中に降り立った。
　そのうち片方の鳥はみるみるうちに人の姿へと変わっていった。
　人の姿に戻った鳥、御巫時子は近くで景色を眺めている駿を見つけるとそっと近寄り背後からその肩を優しく叩いた。
「君はこの前の……」
「こんばんは、駿さんですよね」
「ああ、えっと君は確か御巫君だったね」
「はい、覚えていてくれたんですね」
「あの日は珍しく雪が降っていたからよく覚えている……それでそっちは？」
　駿の目線は時子の横、展望台の手すりに止まるもう一羽の鳥に向いていた。
「この子はヨタカさん、私のお友達です」
「ヨタカさん？」
「はい、人懐っこくはないですが心配性でマイペースな性格なんですよ」
　駿が近寄るとヨタカさんは不思議そうに首を傾けた。
「ヨタカさん、こちらは駿さんですよ」
「キョキョ」
　駿の方を見てヨタカさんはまるで挨拶をするように一声鳴いた。
「ちょっとそわそわしてるみたいだね」
「いつもは九夜山にこんなに人が居ないから……」
　周りを見回すと展望台付近には既に多くの人が集まっていた。
「あの、駿さんはお一人で来たのですか？」
「ん、あぁ……流星群なんて滅多に見れるものじゃないからな」
　駿は星空を見上げふーっと白い息を吐き出す。
「もしよろしければその……一緒に星を見ませんか？温かいお茶もありますよ」
　時子の言葉に一瞬きょとんとした表情をする駿、やがてふっと微笑むように。
「ああ、構わないよ」
　二人は近くのベンチに腰を降ろした。
　時子はコートにマフラーを巻き、カイロや大きめのブランケットでしっかりと防寒対策をしていた。
「さあどうぞ」
　水筒に入れた温かいお茶をコップに注ぎ駿に差し出す時子。
　駿は一言礼を言いそれを受け取ると、少し冷ましてからゆっくりと飲み始めた。
「見てください。街の夜景が綺麗……」
「こんな時でもなければ見ることもなかったろうな」
　そんな何気ないやり取りをしながら二人は流星群が始まるまでの時間を過ごした。

このページにイラストを設定する