九夜山で天体観測｜リアクション

九夜山で天体観測

　三夜湖周辺、恵御納夏朝は一人キャンプの準備をしていた。
　小さな折畳式テントは夏朝一人でも簡単に組立てることが出来た。
「今のうちに枯木を集めよう……」
　焚き火をする為に森に入り枯木を集め始める夏朝。
　十分程で焚き火をするには充分な量の枯木を集める事が出来た。
　登山道を登ってきた仙藤紫が偶然立ち寄ったのはそんな時だった。
「やっと着いた……あら、先客ね」
「こんばんは……」
「ご一緒してもいいかな」
　こくりと頷いた夏朝に紫はにっこりと微笑んだ。
「星空、綺麗ね。あなたも流星群を見に来たの？」
「しし座流星群……僕も獅子座だし、気になる……」
　夏朝は焚き火に木をくべながらそう呟いた。
　火がある程度大きくなると夏朝は鞄からアルミホイルで包んだ食物を取り出し、一つずつ丁寧に焚き火の中に入れ始めた。
「何を焼いているの？」
「さつまいもと、お魚、リンゴとか色々……あとこれも」
　最後に取り出したのは牛乳パックに入ったホットドック、以前ネットで見たキャンプでホットドックを作るアウトドアの知恵である。
「美味しく焼けるといいけど」
　食材に火が通るにつれ辺りに美味しそうな匂いが広がった。
　そんな匂いに惹かれたのだろう、森の中から千歳飴楓子がやって来た。
「あの、もし良ければ食べ物を少し分けてくれないか」
　山道を登ってきて疲れたのだろう。夏朝が頷くと楓子は一言礼を言い焚き火の周りに腰を降ろした。
「流れ星に願えばガチャ運が向上するかと思ったが、さすがに夜の山は冷えるね」
「ガチャ運？」
「スマホのゲームさ」
　そう言いながら楓子はスマホを取り出し弄り始めた。
　その間に紫は水筒を取り出し温かいお茶をコップに注いで二人に差し出した。
　紫は高校三年生、本来であれば今頃は大学受験で流星群どころではない……はずなのだが彼女は去年の夏にＡＯ入試に合格して早々と受験戦争から離脱していた。
　とはいえ大学生になれば忙しい日々を過ごすことになるだろう。
　それゆえ今日は彼女にとって高校最後の年のいい思い出になるだろう。
「恵御納さんの猫帽子、可愛いわね」
　夏朝のお気に入りの猫帽子、枯木を集める際は外していたがお揃いの猫手袋も彼女によく似あっていた。
　一方紫はマフラーにニット帽、手袋としっかりと防寒対策をして来ていたがそれでも冷えるのでホッカイロも欠かさず持ってきていた。
「ありがとう、なの」
　少し照れるように微笑む夏朝。
　その間に食物は良い感じに焼けてきたようでいつの間にか辺りは美味しそうな匂いで満ちていた。
「良い感じに焼けてるようだね」
　楓子もスマホを弄る手を止め夏朝が焚き火からアルミホイルを取り出すのを待っていた。
　火傷しないよう慎重に夏朝がアルミホイルを広げると美味しそうに焼けた焼き芋、焼き魚、焼きリンゴが姿をあらわした。
　焼き加減も上々な様子、後から取り出したホットドックも程良く蒸し焼きにされて実に美味しそうである。
「うん、実に美味しそうだな」
「ほんと、上手く焼けてるわね」
「皆も食べて……どーぞ」
　冷たい山の上で食べる温かい食物はそれはそれは美味しくて、登山で疲れた体に染み渡るようで。
　その味は感動すら覚える程、とてもとても素晴らしいものだった。
「美味しいわね」
「うん、美味しい……上手に焼けて良かった」
「これだけでも充分来た価値があるだろうね」
　食物を食べ終えた三人は星空を見上げ知っている星座を探したりして楽しいひと時を過ごした。

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