寝子高七不思議シリーズ：キサラギ君｜リアクション

寝子高七不思議シリーズ：キサラギ君

「事の始まりは20年前。当時のオカ研が創作した『闇男くん』という怪談があったんだ。
この時点では他愛ないよくある学校の怪談、取るに足らない噂話だったのに……『衣更月雄』という男子生徒が下駄箱で急死した事件を皮切りに信憑性が増してしまった」

　購買部に集合したメンバーに円は説明を始める。

「そして皮肉にも、急死した生徒のあだ名を冠した怪談に変容してしまったんだ」
「でも写真見たけど、衣更くんは儚げな美少年ですよねー。バレンタインに困らなさそうな、もてそうな見た目してると思いますー」

　説明を聞いていた五月が20年前の学生名簿に載った衣更月雄の写真を見ながら不思議そうに呟く。

「……それでも、彼は孤独だったのよ。心臓が弱くて、学校も休みがちだったから」

　五月の疑問に答えたのは購買部の店員である梅月だ。

「梅月さんは衣更君とクラスメイトだったんですよね？」
「ええ。それに衣更君はキサラギくん、私はキサラギちゃんで、同じあだ名っていうこともあって親近感があった、というか、意識していたというか……片想いだったのよ」

　気まずそうに答える梅月の言葉に帰国子女のネヴィアが首を傾げた。

「なんでキサラギくん、キサラギちゃんなんてあだ名がつくんだ？」
「梅月も衣更月も2月の別名だからだよ」

　修の説明にネヴィアが「ふぅん」と無感動な反応を示した一方、梅月は俯き加減のまま重々しく頷いた。

「彼、自分は部活や委員会も参加できず、クラスにも馴染めてないから……イベントのときは殊更寂しくて辛いって言ってたの。だからね、バレンタインの時、私、彼の下駄箱に勇気を出してチョコをいれることにしたのよ」
「しかし彼はそれをうけとることなく亡くなってしまったんですね」
「ええ……チョコは下駄箱に入ったままだったみたいだから。……このままだと、彼は本当に寂しいままで浮かばれないし。
彼のこと、何かの形で皆に覚えていてほしくて、それで」
「闇男くんの噂を塗りかえるようにキサラギくんの噂を流したってわけですか」

　代わりに梢が最後の言葉を紡ぐと、梅月は無言で顔を両手で覆った。

「結果、怪談と彼の寂しさや無念を核に、生徒の好奇心と不安が入り混じった噂、もてない男子の僻みや嫉み恨み……そういったたくさんの想いに神魂が作用して歪んだ形で実体化してしまった……この線が強そうだね」

　そう円は結論付けると最後にぽつりと「かなしいね」と呟いた。

「本当に襲われたりする子が出るなんて、彼が悪霊になってしまうなんて、思ってもみなかったのよ……」

　後悔が色濃く滲む、血を吐くような呟きと共にうなだれる梅月に庚は背を向ける。

「事情は分かりました。……あとは俺達の領分なんで」

　夜が、迫ってきていた。

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