被服室、百年机の暗号｜リアクション

被服室、百年机の暗号

●エピローグ

　放課後の被服室。
　暗号事件前の静けさを取り戻したそこには、相も変わらず家庭科同好会の錦織彩の姿があった。
　しかし、今日手にしているのは、いつものクロスステッチではない。サッカー部の赤いユニフォームだ。腕の部分に黒のライン、身体の正面には「寝子高」の白い文字と校章ワッペンが付いている。
　彩の前には、ユニフォームの持ち主、汐崎キミが、上半身Ｔシャツ姿で、そわそわと身体を揺らしている。
「先輩、どーデス？　直りソー？　大丈夫カナー」
「な、なお、なおる、とは、おお思いま、す……けど……」
　キミに声を掛けられ、おどおどと答えた彩だったが、ひとたび視線を手元に戻せば、その表情は真剣な職人そのもの。
　綻びが見えないように。
　ユニフォームだし着心地がいいように。
　糸を選んで丁寧に縫ってゆく。
　カラリ、とドアが開き、白沢先生が入ってきた。
「あら、錦織さん、こんにちは」
「あ、は、はい……こここんにちは……あっ」
　白沢先生の後ろからは憮然とした表情の桐島先生が入ってくる。どうも最近、ここに来る回数が多すぎる……などと、ぶつぶつ言っているようだ。
　白沢先生は自分の裁縫箱を取り出すと、彩たちの傍に桐島先生を座らせた。
「はいはい、桐島先生脱いでくださいね」
「む……」
　桐島先生はちらりと彩とキミを見たが、結局白沢先生に逆らえずジャケットを脱ぐ。
「袖がほつれちゃってたのよ」
「そんなに安物を着ているつもりはないのだが……」
「いいものだからこそ、大事に繕って着てくださいな」
　そう言いながら、白沢先生は針に糸を通してゆく。
「そーいえば白沢センセ、結局、暗号のお宝の写真ってセンセーが持ってるんでしょ？　見たいナー」
　キミが手持無沙汰からおねだりしてみると、意外にも簡単に、白沢先生は写真を見せてくれた。
「これってホントにセンセなの？　なんで人魚？」
「ふふふっ、これね、学園祭だったのよ。私、人魚姫の役が当たってね。この衣装も実は手作り。人魚の足の鱗や貝殻もね、フェルトや布で作って……ずいぶん夜なべしたわ。力作だったのよ、ふふふ」
「て、手作りなんですか……縫い目もきれいだし、す、すごいです先生……」
　彩が素直に関心する。
「イヤ見どころはそこじゃないネー」
「うむ……この写真がお宝という気持ちはわかるな、男として……」
「え？」
「おほっ！？」
「あ……いや、ゴ、ゴホン」
　桐島先生はバツが悪そうにひとつ咳ばらい。
　気を取り直し、キミが訊く。
「ねー、白沢センセは、この写真を隠した人に心当たりナイの？」
「あらまあ、そうね……それは……」
　そこでくすっと白沢先生は悪戯っぽく笑った。
「内緒、よ」

「汐崎ーっ！　いつまで油売ってんだーっ！　練習行くぞー！　第一グラウンド集合ー！！」
　窓の外から、サッカー部員の呼び声がする。
　キミは窓を開け、外にいる仲間に向かってフィンランド語まじりに叫んだ。
「よー！　いま行くー！」
　彩がちょうど繕い終えて広げていた、背番号３５番ＳＨＩＯＳＡＫＩのユニフォームを手にすると、キミは「きーとす」とお礼を言って走ってゆく。
　キミが開けた窓から、桜の花びらが、ひらりひらり。
　舞い込んで、被服室百年机の暗号の上にひとひら落ちた。
　
【被服室、百年机の暗号・了】

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：笈地行
ファンレターはマスターページから！

ゲームマスターを務めさせていただきました、笈地行（おいちあん）です。
此度はご参加いただきありがとうございました。
初リアクションでしたが、いかがでしたでしょうか。

どうしてこの暗号がいままで解かれなかったのか……。
おそらくこれまでも解いた生徒はいたのでしょう。
しかし噂になる度に、今回同様、悪戯事件が発生し、
本物の宝は見つかることなくここに至ったのではないかと、
不肖わたくしは想像するのであります。

さて、みなさまの素晴らしいアクションのおかげで、
見事暗号を解き、お宝をゲットすることができました！
お宝は、ご覧戴けましたでしょうか？
あまりの美麗さに、わたしも興奮してしまいました。
この場をお借りして、絵師のGOMA様に御礼申し上げたいと思います！

それでは心より御礼まで。
どうぞよい年末年始を！

笈地行

↑ページトップに戻る

被服室、百年机の暗号

あとがき

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧