被服室、百年机の暗号｜リアクション

被服室、百年机の暗号

　先生の手の中に納まった宝。それは、一枚の写真だった。

「人魚姫、でしょうか……」と森蓮。
「ナイスバディな美人さんです～」と夢宮瑠奈。
「胸すげー！」とマコト。
「は、わ……！」と顔を赤くする上穗木千鶴。
「先生、裏面に何か書かれているようですが？」と弓弦原譲。
「なにかしら……」
　そういって白沢先生が写真を裏返すと、そこには……。

　【俺たちのマドンナ　絢子サン　好きだー！】

「これって間違いなく告白よね」とうっとりするしおり。
「やっぱり『俺の宝』って書いた男子は、あの暗号を使って秘めた思いを……」と神薙焔。
「ねー、この『絢子さん』ってもしかして……」
　何食わぬ顔で会話に混じっているのは、人間に戻ったタルトだ。
　葵がタルトの言葉を引き取る。
「ふむ。たしか白沢先生も、絢子という名だったよねぇ。ということは、この写真はもしや、若かりし白沢先生ということなのかな？」
「あら……まあ……、そうだわ。私がここの学生だった時の……。あらやだ、恥ずかしい……」
　照れる白沢先生に、「ええ～～～っ」とみんなの大合唱。

　芹沢梨樹は驚く皆を遠巻きに見ながら思う。
　寝子高６０年間の歴史の中で、白沢先生が学生の時代があって、誰かが白沢先生に思いを寄せてた。そしてこれを残したんだよな。
　過去があって、今がある……当たり前の事だけど、あんまり実感した事はなかった。
　なんだか不思議な気分だな。
　――そんな感慨に、梨樹だけでなく、宝物を見つけた皆が包まれたのだった。
　
◆

　翌日。
　非公式新聞部の新聞が、学内掲示板に張り出された。

　――被服室、百年机の暗号解かれる！

　――白沢教諭は学園マドンナだった！？

　――お宝は、ウン十年の時を経た、愛の告白！？
　
　記事はもちろん、三ヶ島葵女史渾身の取材によるものだ。
　噂は一時、学内を駆け抜けた。
　しかし、やがて、熱狂は忘れられ、生徒たちは日常に戻ってゆく……。

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