被服室、百年机の暗号｜リアクション

被服室、百年机の暗号

●本当の宝

　くすくす、くすくす。
「だーいせーいこーう」
　暗躍した、悪戯クラブプラスワンが、悪戯の成功にハイタッチしていたそのころ。

　放送室前には普堂しおりが辿り着いていた。
　授業中に暗号を知ったしおりだったが、実のところ、暗号が解けたわけではない。
　左上に「マエ」ってあるから、と、暗号を五十音の一つ前にずらし、さらに右上から縦に読んで「ウエカラ」……そこまで読んで、天井にある物？　ってことは、スピーカー……放送室かも？　他の文字が意味不明だけどダミーでしょ。と勘違いか勘が冴えてるのかわからない思考ののち、この場所にやってきたのである。
「チョリーッス」
　そこに、ごとごとと机を持ってやってきたのは安本マコトだった。
「あっ、もしかしてー。暗号わかっちゃったクチ？　俺も俺もー」
「う、うん。高いところ届かないし、勝手に調べたら怒られるかなって思ってたとこ……」
「いやー、だいじょぶっしょー。ちなみに暗号の答えだけど、『放送室前スピーカーの裏』だよなー？」
「えっ、……あはは、う、うん。そう、かな……？」
　そうだったんだー、と内心の焦りを隠しつつ、しおりは答える。
「いや実はさ、解いたの母さんでさー、宝の正体拝んで来いって言われてさー。でも男子学生のお宝なんて決まってると思わねー？」
「ん、愛の告白、とか……？」
「いやいや、やっぱ、エッチなお宝本でしょ。男子的にこれしかないっての」
　そこに、被服室方面からどやどやと暗号が解けた面々がやってきた。
　図書室組の弓弦原譲、伊藤佳奈、上泉睡蓮、コンピュータ室組の神薙焔、森蓮、被服室にて暗号解読に取り組んでいた夢宮瑠奈、上穗木千鶴、芹沢梨樹、そして白沢先生だ。
「ふむふむ。なるほど、暗号はシーザー暗号という種類だったわけだねー」
　被服室の暗号の写真を学内に知らしめた立役者、三ヶ島葵が録音用レコーダーとデジカメを手に暗号解読に成功した者に質問しながらついてくる。非公式・寝子高新聞部のネタに、ということのようだ。
　みんながスピーカーの周りに集まる。
　マコトが運んできた机の上に乗り、みんなを見回した。
「いよーし。役者はそろった。スピーカーの裏、開けてみるぜー」
　埃を被ったスピーカーに手をかけ、慎重に裏側を探る。
「あ、なんか、外れそー……あっ」
　マコトが、本当の宝を取り出したそのとき。

「待って、僕にも見せてよ～」
　響タルトの声がしたように思った。
　その直後。
「あっ、こんなところに水が入ったバケツが！？」
　ばしゃーんと、派手にバケツがひっくり返る音がして、皆が一斉に振り返る。
「にゃーん！」
　そこには。
　赤いリボンをつけた猫がいた。
　滑って水をかぶり、ろっこん「チェシャ猫」で猫に変身した猫タルトであるが、もちろん皆は知る由もない。
　猫タルトは、ぴょん、ぴょん、ぴょーん、と皆の頭を踏みつけひと声、
「にゃー」
　と鳴くと、マコトの手から宝を奪い、逃げた！
「あっ、待て、このやろっ」
　そういわれたって、待つわけがない。
　猫タルトはまた、ぴょんぴょんと皆の頭を踏みつけると、白沢先生の腕の中めがけ跳躍する！
「にゃーん」
　猫タルトはくわえた宝を白沢先生に渡すと、仕事を終えたとばかりに腕の中を去る。
「あら、まあ、これがお宝、なの？」
「えっ、なになに？」と伊藤佳奈。
「先生、私たちにも見せてください！」と上泉睡蓮。
「あら……まあ……これは……」

　

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