【球技大会】テニスの部（白猫組サイド） -後半-｜リアクション

【球技大会】テニスの部（白猫組サイド） -後半-

最初のサーブは葵からだ。
ベースラインに立った葵は球を胸の前あたりへ軽く放り投げる。
それを下からすくいあげるように相手のコートめがけて打ち放った。
アンダーサーブ。
久雨は身体の緊張を少しほどいた。
球は彼女の頭上を越えていく。
「任せたぞ圭花！」
「分かってるっ」
久雨の呼びかけに応えた圭花は、山なりに飛んでくる球へと走った。
走りこむそのままの勢いで、彼女はラケットを振り抜いた。
力任せに打たれた打球は低めの軌道で飛んでいく。
「あっ」
しかしその軌道は少し低すぎたようだ。
ぱしっ、と音を立ててネットをかすめてしまった。
勢いを殺された球は大きく跳ね上がり、そのまま向こう側のネット際に落ちた。
既に球筋を予想して移動し、ラケットを構えていた蓮は虚を突かれ動けなかった。
「森くーん、ドンマイだよー！」
葵ののんきな掛け声に、蓮は手を振って返事をした。
「危なかったが結果オーライだ。この調子で揺さぶってやろうじゃないか」
と言って久雨は圭花の肩を叩く。
「狙って出来たら苦労しないわ」
そう言いながらも圭花は内心ほっとしていたのだった。

両ペアともにテニス経験は浅く、久雨を除いてはあまり運動も得意ではない面子だ。
葵はテニス部に所属しているものの、未だ初心者の域を出ない。
そのため、試合は比較的長いラリーの続く泥臭いものとなった。
葵と蓮は一球一球を返すことに集中し、相手のミスを辛抱強く待つ。
圭花と久雨はあえてみずからラリーのリズムを崩すことでミスを誘う。
実力はほぼ拮抗していた。
「ゲーム！　黒猫組！」
だからこそ、その拮抗状態を崩すのはわずかな精神の乱れ。
ミスの度に苛立ちを募らせる圭花のプレーは次第に雑になっていた。
相手にリードされてのチェンジエンド。
葵とのすれ違い様、圭花は呟いた。
「テニス部ってのは入部するだけでも上手くなれるのかしら？」
葵はにやにや笑いを崩さず答える。
「もしそうだったらもうとっくに決着ついてると思うよー」
圭花の隣を歩く久雨は、やれやれと言った体でそのやり取りを眺めているが、間に割って入るつもりは無いようだ。
二人のやり取りは軽いじゃれあいようなもので、互いに悪意があるわけではない。
少しでも圭花の苛立ちが紛れるのならば止めるべくもないと久雨は思うのだった。
「それにしてもいつもの面倒臭がりはどうしたのかなー？　桃川くんが部活したいなんて言うとは思わなかったんだよー」
「私だってたまには重い腰を上げる時もあるわよ。お高い鼻をへし折りたい時とかね」
「お褒めに預かり光栄だねー」
「その辺にしておいてください葵さん」
放っておけば終わりが見えなさそうな二人のやり取りを見かねて、蓮が葵に声をかけた。
「ん、あー、森くん。なにかなー？」
「盤外戦は程々にして下さいと言ったんですよ」
にへらと笑って葵は言った。
「A barking dog seldom bites」
ぴ、と人差し指を立てる。
「自信が無いのさ。お互いねー」