【球技大会】テニスの部（黒猫組サイド） -前半-｜リアクション

【球技大会】テニスの部（黒猫組サイド） -前半-

楚良と瑠奈、そして譲までが呆然としていた。
それまでの流れ通り、楚良と譲の応酬の後、瑠奈から四月へ返球した時。
カウントは４０－０で、これで決まりだと皆が思ったその時である。
「なーんちゃって！！」
突如そう叫んだ四月は思い切りラケットを振り抜いた。
今までのプレーがまるで嘘のように、快音が響く。
黄色い球が四月の小さな体躯から放たれたとは思えないほどの速度で飛来する。
瑠奈は追いつけない。
なんとか追いついた楚良がラケットを差し出した。
「！？」
楚良のラケットが宙を舞った。
弾いた球は背後の金網にぶつかって大きな音を立てる。
一瞬何が起きたのか把握できないでいた楚良の足元に、からからとラケットが転がった。
瑠奈が駆け寄る。
「大丈夫？」
楚良は転がったラケットを拾いながら答える。
「ああ、怪我はないよ。ただ、物凄い威力だった……」
「そんなに……？」
頷く。
「そう、まるで」
楚良は付けくわえた。
「二人で打ったみたいな」
楚良は四月を見据える。
これまでの腑抜けっぷりは一体どこへいったのか、至極真面目な表情でラケットを構えている。
一筋縄ではいかない気迫があった。
思わずごくりと唾を飲む。
「きっと並々ならぬ集中力が彼女を変えたんだ……！」
目を輝かせている楚良に、瑠奈はぼそりと言う。
「発酵してるってことだね」
「発光？　うん、確かに輝いてるな」
日本語って便利だな、と瑠奈は思った。
会話を終えて、二人は再度位置につく。
サービスは瑠奈。
球をつきながら呼吸を整える。
瑠奈が見た四月の目にはなにやら異常な執念が宿っているように見えた。
ぽん、と球を放る。
懸命に背をそらし、小柄な瑠奈には大きすぎるようにも見えるラケットを振り下ろした――

――黄色い球が緑のコートを叩いた。
「ゲームセット。白猫組！」
わっ、と歓声が上がる。
楚良と瑠奈はその場で膝に手をつき、肩で息をしている。
覚醒状態の四月は、元々あまり運動の得意でない二人の手には負えず、振り回されてへとへとになっていた。
当の本人はといえば、満面の笑みを浮かべている。
あれだけ動いたというのに疲れた様子も見えない。
「常盤、お疲れ」
「うん、弓弦原君もおつかれさま！」
「最後は常盤にまかせっきりになってしまったな、すまん」
そう言って頭をかく譲に、四月はきょとんとした表情でこたえる。
「え、あたしそんなに凄かった？」
妄想していた間はほとんど意識が無かったようで、自分の力で逆転したという自覚がないようだった。
コートを去り際に楚良は譲と四月に握手を求めた。
あとからついてきた瑠奈も一緒に手を差し伸べる。
「良い試合だったよ、ありがとう弓弦原君。常盤さん」
「あたしも楽しかったですよぉ、四月ちゃん」
四人はそれぞれ笑って握手を交わすのだった。

――第２試合、白猫組勝利。

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