【球技大会】テニスの部（黒猫組サイド） -前半-｜リアクション

【球技大会】テニスの部（黒猫組サイド） -前半-

その後の四月は楚良と譲が打ちあうたびに調子を崩した。
楚良が打ち、譲が髪を振り乱して球を追う。
ただそれだけの光景が、どうやら四月には別の何かに見えているようだ。
譲の様子もただ事ではない。
「それ以上俺に近寄るなあァッ！！」
「俺は、俺は断じてそんなことを望んでいないっ」
「お前はっ、俺のォ！！！」
などとストロークの度に叫んでいる。
パートナーの異常に気付けるような状態ではない。
四月は四月で妄想に耽っていると、譲と楚良以外の何者も目に映らず、瑠奈がどんなに絶好球を放ってもまともな返球が出来ないのだった。
そして、程なくそのことに気がついた楚良は、瑠奈にもそれを告げる。
「どうやらあっちの常盤さん、俺と弓弦原くんが打ちあった後の夢宮さんからの球に反応出来ないみたいだね。理由は分からないけど……」
「うん、そうみたいだね……女の子だもんね……」
「どういう意味だ？」
「えっ……え、えと、ほら女の子だからカッコいい男の子が二人いれば見惚れちゃうよねって！」
瑠奈は慌てて取り繕うように答える。
「そういう感じではないと思うんだが……とにかくなるべく今言ったように攻めていこう」
「うん、がんばる」
果たして、その作戦は効果的だったようで、楚良と瑠奈は順調に点を重ねていった。

「ゲーム！　黒猫組！」
審判がカウントする。
「これで５－４か……」
譲は汗を滴らせながら息をついた。
「散々妹の顔面を叩き潰してやった……フッフフ……俺としたことがアツくなりすぎたかな……」
背筋を流れる汗は果たして運動の汗か、冷や汗か。
ともかく次のゲームの前にエンドチェンジを行わなければならない。
既に楚良と瑠奈はこちら側へ歩きだしていた。
譲も四月を促そうと、その肩を叩いて声をかけた。
「おい、常盤。行くぞ」
「うにゃっ」
譲の手が肩に触れた瞬間四月は奇声をあげて飛びあがり、土ぼこりが立つほどの勢いで身を引いた。
振り向いたその顔は真っ赤だった。
「すまん驚かせたか？」
「だ、だいじょぶ、だいじょぶ！」
明らかに大丈夫ではなさそうな顔色の四月だが、譲は深く追求しない。
「そうか。とりあえず向こうへ行こう」
譲は先に立って歩き出した。
「そう言えばさっき気付いたんだが、どうやら向こうの男は俺に球を集めているようだ」
「三崎君が弓弦原君に、球を……？」
頷く譲。
「ああ。どうやら俺は三崎に狙われているらしい」
「狙われてる！？」
その言葉を聞くと、四月は一層鼻息荒く何事かぶつぶつと呟きだした。
多分常盤も夢宮に狙われている、という話の続きなど耳に入っていなかった。
「俺の球……お前だけ……狙って……うふ、うふふ……」
その間も譲の作戦会議は続いている。
「――だからこっちも、って常盤聴いてたか？」
「え？　なに？」
譲は額に手を当てためいきをついた。
「とにかく頑張ろうな……」
「なんだぁ、そんなこと？　だーいじょうぶ、まーかせて」
薄い胸を張り、無責任な笑顔を見せる四月。
この根拠のない自信は一体どこから来ているのだろう、少し分けてもらいたいものだと譲は思う。
ホイッスルが鳴った。

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