【球技大会】テニスの部（黒猫組サイド） -前半-｜リアクション

【球技大会】テニスの部（黒猫組サイド） -前半-

「ごめんね、ひびきちゃん。私のせいで１ゲーム取られちゃった……」
先ほどのゲームで決定打となったのはブリジットの打球だった。
それまで順調にラリーを続けていたところへ、唐突に放たれたドロップショット。
ネット際に落ちたそれに、美咲紀は反応することが出来なかった。
自分のせいだとうなだれる美咲紀に、ひびきは明るく返した。
「ううん、さっきのはきっと私でも取れなかったよ。だいじょぶだいじょぶ、まだまだ先は長いんだからっ」
「そうだね……うん、ありがと！　今から負け犬ムードじゃこの髪飾りにも申し訳ないもんね」
髪飾り？
そう尋ねるようにひびきは美咲紀の頭に目をやる。
普段は結わずに下ろしている長い黒髪を、今日はポニーテールにまとめている。
その豊かなしっぽの根元には、５枚の花弁が丸く並び、その周囲を細長く先の尖った葉がリースのように取り巻く意匠の髪飾りが光っていた。
オダマキと月桂冠。
どちらも『勝利』の花言葉を持つ植物だ。
「お守りみたいなものだよ」
「なるほどね、美咲紀らしいな」
「だから頑張らなきゃね！」
そう言うと美咲紀はガッツポーズをつくった。
「元気出た？」
「うんっ」
「そっか」
明るく笑顔を見せる美咲紀を、ひびきは眩しそうに見やる。
「それじゃあ、次は……」
するとひびきは、少し声を落として作戦会議を始めるのだった。

チェンジエンドを終え、４人とも所定の位置へついた。
サービスは黒猫組、天馬ひびき。
相対しているのはすばるだ。
（さっきのゲームでも返せないほどの球は来なかった。大丈夫、あんなに練習したんだ）
それに、とすばるは呟く。
「相手は女の子だぞ」
審判のホイッスルが短く鳴った。
同時にひびきは球を放り投げる。
「え……？」
高い。
不必要なほど高く、ひびきは球を放っていた。
「あれじゃタイミングが……」
きっとミスだ、と。
そのまま受け止めてもう一回投げ上げるだろう、と。
すばるは思っていた。
「あはっ」
ひびきはわらって、跳んだ。
ブリジットがすばるの名前を叫ぶのと、すばるの背後の金網ががしゃんと音を立てたのは殆ど同時だった。
「１５－０！」
審判のカウント。
すばるの耳には入っていない。
「え、何が……」
呆然としているすばるの隣へブリジットが下がってきた。
「あれ、ブリジットさん？」
「前を向いてなさい！」
言われたとおりに前を向く。
その視線の先、ネットの向こう側で、ひびきが跳んだ。
今度はすばるにも分かった。
ジャンピングサーブ。
いっぱいに引き絞った筋肉を、ただその一挙動、ラケットを振り下ろすためだけに使って、快音をひびかせ打球はすばるたちのコートへと突き刺さった。
集中していたブリジットも追いつけないほどの速さだった。
当のひびきはすまし顔で、次のサービスの準備をしている。
その目がすばるを見た。
笑っている。
笑っているが、本気の目だ。
「ブリジットさんで取れないものをボクが取れるのか……」
先ほどまでの自信は塵と消えた。
そして放たれる大砲。
すばるはラケットを出して追いすがるが、完全に出遅れていた。
カウントは４０－０で、もう後がない。
１ゲーム先取というアドバンテージがあっという間に奪われようとしている。
そして、次のサーブでそれはあっけなく奪われた。
ブリジットはなんとかラケットに当てたものの、ネット。
圧倒的な試合展開に、すばるもブリジットも、何も言えなかった。
ただ反対側のコートで、美咲紀が嬉しそうにひびきへ抱きついているのを眺めているだけだった。

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