寝子島、アクアアルタの日｜リアクション

寝子島、アクアアルタの日

　海岸線は寝子島を確実に浸食していた。寝子島街道は水没、寝子島駅にも海の水は到達し、参道商店街にも道路一面ひたひたと水が押し寄せてきていた。

　お好み焼き『うさぎ屋』が店を構える町内の店主達は、一同に開店前の『うさぎ屋』に集合していた。
　ガヤガヤと話す彼らの前に、いつものオレンジ色の長袖Ｔシャツとジーンズの裾をしっかりとまくり上げ、かかとのついたサンダルを履いた宇佐見満月が立ち上がった。
「みんな、営業始まる前の忙しい時間にすまないねぇ……何せ緊急事態さぁ、協力して対策取っていきましょうさね」
　『うさぎ屋』店主である満月の言葉に全員が真剣な顔で頷く。満月の横にいた町内会長が言葉を続けた。
「突然の海水だが、うちの町内は土嚢を積めば何とかなるかもしれない。―――みんな、頑張って店を開けようじゃないか！」
「「「オーッ！！！」」」
　会長の檄に店主達は一致団結。大きく声を上げた。

「満月さん、土嚢よしさんの店に運んでくよ」
「みっちゃん、俺の店は高台だから大丈夫だ。どこに助けに回ればいい？」

　町内の店主達が次々に満月に声をかける。姉御肌の満月はこういう時、どうしても中心的な存在になってしまうのだ。しかし満月は煩わしい顔１つせず、ちゃきちゃきと答えていく。

「土嚢は運んで貰って構わないけど、足りなくなってきたねぇ。もう少し運び出しに人数割かないとダメかもね……若手はもっとねこ車を動かしてじゃんじゃん持って来て！」
「そうさね、『ベテラン勢』の皆様は積み上げの方を頼みますよ。あ、側溝の掃除も念のためお願いしますよ！」

　満月の指示により店主達もテキパキと動き、全員が一丸となって町内の店を通常運転させようと準備を進めていくのだった。