【今日も元気に這い寄るHentai】

　その日、同じ頃、寝子おっぱい島のまた別の場所で――。
　来島 アカリは、暇を持て余していた。
「むー……。暇だし、ちょっと本屋でも行くかなー……」
　そのちょっとした出来心が、その日の彼の悲劇の始まりだった。
　アカリは本屋に向かうその道中で、東条 あんずとバッタリ出会った。
「おー！　アカリじゃんか！　元気してるか、おっぱい！」
「おー、あんずか。お前は相変わらず元気だな――じゃなくてっ、女の子が何てこと言うんだ！？」
「あはは！　アカリ、顔真っ赤だぞー！　おっぱいって言葉だけで顔が赤くなるなんてアカリはコドモだなー！」
「だからっ、女の子がおっぱいおっぱい言うなって！」
　と、そのときだった。

「……おっぱい？」

「……！？」
　ふと気づくと背後に人の気配があり、アカリはハッとして後ろを振り返った。
「……だ、誰だ！？　って、うわあああああああああああああ！？」
　アカリは思わず絹を裂くような悲鳴をあげた。
　そこにいたのは――両腕がうねうねと動く触手になった謎の生命体だった。
「おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱぁぁぁぁいっ！」
　謎の触手生命体こと朝野 未沙は数えるのも面倒なぐらいの回数「おっぱい」と連呼しながら文字通りの意味でアカリに触手を伸ばしていた。
　そう。もともとおっぱい星人であった未沙はこの寝子おっぱい島のおっぱいに満ちた空気に包まれたことで、正真正銘のエイリアン的なナニカになってしまっていたのである！
「……こ、こらっ！　ふ、服の中に突っ込むな……！　にゃあああああああっ！？」
　アカリが女の子っぽい悲鳴をあげるので、未沙は余計に興奮したようだ。
「おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱぁぁぁぁいっ！」
「う、うわぁあああああああああああああああああああああああああ！？」
　未沙の触手に全身をまさぐられて、アカリはもう半泣きだった。
「ア、アカリッ！　ま、待ってろ。今、助けるからなっ！　おっぱい！　おっぱい！　おっぱいぃいいい！」
「だから、女の子がおっぱいとか言うな……って――へ！？　あんずの身体が光輝いて……」
　その直後――。
「おっぱいヒロイン魔法少女☆あんず登場だぜ！」
「だから、おっぱい言うな……！」
　なんということでしょう。あんずはおっぱいヒロイン『魔法少女☆あんず』に変身してしまったのです。おっぱい。
「……ちっぱい魔法少女？」
　と、そんなあんずに対し、未沙は『これはこれでアリ？』というような視線を投げかけてくる。
　それに対し、
「ちっぱい？　うん、意味はよくわからないけど、響きがいいな！　よし！　くらえ、ちっぱいビーーーーーム！！！」　
「おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいちっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいちっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいぐぼああああああああああっ！？」
　魔法少女☆あんずの『ちっぱいビーム』は未沙を見えなくなるほどの距離まで大きくぶっとばした。
「うわ……。凄いけど、ひでぇ……！　ていうか、大丈夫か、アイツ？」
　襲われていたはずのアカリが思わず心配してしまうくらい、未沙は綺麗に吹っ飛んだ。
　ともあれ、アカリはどうにか触手から逃れることができた。
「おー！　スゲーな！　やっぱりうちのちっぱいビームはサイコーだぜ！」
「いや、あんず。その台詞はちょっとどうかと思うぞ……？」
　と、アカリが突っ込んだまさにそのとき、そこに『奴』が現れた。
「ふふふ。そこのお嬢さん、私と契約して魔法少女になりませんか？」
「え？　うち、もう魔法少女なんだけど……」
「またなんか変なの来た！？」
　寝子おっぱい島の大怪盗――ル・パンツであった。
　彼は、ピンクのシルクハットにピンクのスーツ、ピンクのマントという目に痛いというか、とてもイタい出で立ちをした変態である。
「おっと、これは失礼。では、魔法少女のお嬢さん。ここは一つ吾輩と平和的な解決を模索してみませんか？」
「へーわーてきかいけつ？」
　あんずは意味がわからないらしく、アカリに説明を求めるように視線を向ける。
「……ケンカじゃなくて、話しあいをしましょうってことだ」
「おー！　いいじゃん！　よし、うちもへーわてきかいけつするぞ！」
　あんずが無邪気に頷き、それにル・パンツも我が意を得たりというように鷹揚に頷く。
（おお……。意外とまともな人……？）
　アカリがホッとしかけたまさにそのときだった。
「では、吾輩にそちらの方のパンツを頂きたい。そうすれば、吾輩大人しく帰ります」
「だそうだ！　アカリ、ぱんつぬげ！」
「おお、そうか。まあ、パンツぐらいなら――って、なんでだよぉおおおおおおおっ！？」
　今まさに、来島 アカリには人生最大のピンチが訪れようとしていた。
「なんだよ、アカリー。いいじゃんか、パンツぐらい。減るもんじゃないし。へーわてきかいけつしたくないのかー？　おっぱい！」
「うっさい！　つか、減るよ！　俺のＭＰが今まさにゴリゴリ減ってるよ！　って、おいズボン引っ張んな。ベルトで締めてあるから無駄だかんな……って、あれ、ベルトがない！？　あ、こら、あんず、やめろっ、ぎゃ～～～～～っ！？」
　そして、ついにアカリはあんずにパンツを強奪された。
「ほら、おっさん。これでいいだろ？　今ならズボンもサービスでつけるぜ！」
「勝手につけんな！？　俺のパンツ返せぇえええええええええ！！」
　アカリは裾の長いパーカーを必死で引っ張って、何とか大事なところを隠すことには成功するものの、ほんの一瞬でも油断すれば完全にチラリズムしてしまうという超危険な状態には何も変わりなかった。
「つか、道の真ん中で下半身裸とかどうしろっつーーーんだよぉおおおおお！？」
　この島で数少ない正常な判断力の持ち主であるのに、その格好は完全に変質者のそれという皮肉な状況にアカリはもう涙目だった。
「ほう……。これはこれは……。では、この怪盗ル・パンツ、約束は守りましょう。また会おう！」
「二度と会うかっ！　じゃなくて、パンツ返せぇえええええええええええっ！」
　アカリの悲痛の叫びも虚しく、そのままル・パンツは完全にドロンしてしまった。
「やった！　アカリ！　うちらはへーわてきかいけつにせいこうしたぞ！」
「うう……」
　子犬みたいに無邪気に喜ぶあんずの横で、アカリはしばしめそめそぐすぐす泣いていた。
「もー、そんなに泣くなよー。アカリ、男だろー！　分かった分かった、あんず様に任せなさいって、パンツがなくても隠す手段なんていっぱいあるんだぞ！　ほら、両手出せ！」
「は？　この状態で、どうやって……」
　ぶつくさ言いつつ、律儀かつ器用に大事なところを隠しながら両手を差し出すアカリ。
　あんずがそんなアカリの両手を握り「にゃんにゃん！」と言ったときだった。
「へっ！？　うわ、ネコミミとネコ尻尾が！　へ？　これで隠せ？　いや、無理だろ――つか、これどんなプレイだよ！？」
「よし！　今日もうちは寝子おっぱい島の平和を守ったぞ！　おっぱい！」
「だから、女の子がおっぱいとか言うなっ！　って、うわ、なんかネコがいっぱい来たぞ！？　うわ、違う！　俺はお前等の仲間じゃねーから。こら、そんなところ舐めるなっ！　やーーめーーろぉおおおおーーーーっ！？」
　そんな絹を裂くような悲鳴が木霊しつつ、来島 アカリの受難はあともう少しだけ続くようなのだった。