【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ｜リアクション

【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ

　夜が明け、太陽が戻ったサジタリオの街は、大騒ぎだった。皆が久し振りに見る陽の光を浴び、笑い合う。
　そしてその討伐隊がもたらしてくれた太陽がだいぶ昇った頃、戦いを終えた隊の面々が帰還した。大通りは住民で埋め尽くされ、歓喜の声で出迎える。激しい戦いだったのだろう、皆一様に傷だらけであったが、彼らの顔は喜びと誇りで輝いていた。

　そんな中、広場できょろきょろと辺りを見回す子供がいた。
「ここ、どこかなぁ……何だか面白そうだねぇ！」
　突然寝子島から飛ばされて来た曖浜瑠樹だ。
　可愛い猫耳付きの白いリーブに、＜癒しの光＞を宿した白猫のリコーダー入れ。ローブにはお守りのようにサンマさんとマンボウくんのぷち縫いぐるみが付いている。いっぱしの可愛らしい魔法使いの姿である。
　広場は帰還した兵士と、その生還を喜ぶ家族、そして太陽が戻ったことを祝う住民達でいっぱいだ。
　瑠樹は臆するどころかむしろ興味津々で、広場の中を歩き始めた。

　無事サジタリオ城奪還作戦から生還出来た水上桜は人混みの中、広場の石畳の上に座り込んでいた。
（疲れたわ……）
　とにかく疲れた。本当に疲れた。戦いの最中は無我夢中で、自分が生き残ることばかりに神経を集中させていたので、まだ心がささくれ立っている気がする。
　挙げ句に自分の姿も酷いものだった。ところどころ返り血を浴びた凄惨な姿。全身汗まみれだし、恐らく顔も薄汚れているだろう。こんな１歩間違えば盗賊のような姿では宿屋にも泊まれない。どこかで風呂にでも入らないとと思っていた時、突然子供の驚いたような声がした。
「お姉さん、怪我してるんだぁ？！」
　それは白いローブ姿の瑠樹だった。可愛らしい魔法使いの登場に、桜は思わず微笑んでしまう。
「ああ、違うのよ。これは私の血じゃないわ」
　そうよね、驚いちゃうわよねと桜が自分の姿を見ていると、瑠樹がふるふると首を振りながらしゃがみ込んで桜の左腕を取った。
「違うよぉ。ここだよぉ！」
「え？」
　つられて桜が覗いてみると、確かに自分の左肘がさっくりと切れ、血が滲み固まっていた。
「気が付かなかったわ……」
　それどころじゃなかったから。桜は心の中で付け足す。この程度で良かったのだ。無事帰って来られたのだから。
　しかし瑠樹は桜の目の前で突然すっくと立ち上がった。
「お姉さん、大丈夫だよぉ！　オレ、魔法使えるんだぁ！」
　そう言って瑠樹は高々と白猫のリコーダー入れを杖のように天にかざす。そして、
「かーいふくー！」
と唱えると、えいっとリコーダー入れを桜の方に向けた。
　するとどうだろう。桜が白い光に包まれて、みるみる内に傷が塞がってしまったではないか。
「あら、凄い……」
　桜はあっけにとられてパチパチと瞬きする。瑠樹はにへっと笑った。
「血の汚れとかまでは取れないから、ごめんなぁ！」
　そう言うと瑠樹は「お姉さん、またなぁ！」と言って駆けて行ってしまった。
　その駆けだして行く姿に、桜は何かに気が付く。しかし声をかけようと思った時にはもう姿は見えなくなっていた。
（ありがとう）
　そう思いながらも、桜は首を捻る。
（あの子のローブについていたもの……サンマさんとマンボウくんじゃなかったかしら？）

　桜と別れた後、瑠樹は広場でお店を開いていた。
　意図していたのではない。持っていた手作り風車で遊んでいたら、たくさんの人の目を引いてしまったのだ。
　色々な遊び道具と共に異世界に飛ばされた瑠樹。お手玉、おはじき、貝殻、紙コップや紙皿、凧糸……。見た事もない物の数々に、瑠樹はあっという間に人々に囲まれてしまった。
　その幾つかを分けてやり、代わりに貰ったのは綺麗なコイン。
（これがここのお金なのかなぁ？）
　ピカピカのそれを瑠樹は大切にしまい込んだ。
（もし誰かお金に困った人がいれば、少し貸してあげようかねぇ！）