【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ｜リアクション

【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ

　サジタリオの城下町で、香辛料と梅コンブ片手に市場で交渉している人物がいた。鴻上彰尋だ。彼が今このような行動を起こすまでには、色々な人との関わりがあった。

　彰尋はステラによってここに飛ばされて来ても、慌てなかった。以前も同様に飛ばされ、耐性が出来ていたのだ。それどころかまた戦いになった時、長期戦の場合は調理に必要かもしれないと、常に香辛料まで携帯していた。
（今回は俺は戦わなくてよさそうだな……）
　暗いながらも普通に生活している人々を見ながら考える。けれども１度ステラと関わり合いになった身。いつ戦いに巻き込まれるか分からない。今後も何か戦があるなら拠点があった方が良いのかなと考えていた時、ポンと背中を叩かれた。
「よう、鴻上氏！」
　それはこのファンタジーのような異世界で何だか生き生きしているエスカルゴ・臼居だった。

　寝子高の先輩であり、ネトゲの大先輩であるエスカルゴの助言で、彰尋は空き屋を手に入れてギルドハウスを作ることにした。どうやらこういう世界で役に立つらしいのだ。
　「何かの足しにして」とエスカルゴは梅コンブを彰尋に渡し、根城にしているという酒場に戻っていった。
　恐らくギルドハウスが出来たら利用するつもりなのかもしれない。『殻の家』と名前まで決めていったエスカルゴの後ろ姿を見ながら、
（……手続きを済ませたら会いに行かないとなぁ）
と思う彰尋であった。

　さて次は空き屋入手、と彰尋が考えていると、今度は雨崎荒太郎と暁桜逢莉に出会った。
　歌を披露しながら路銀を稼いでいるんだと言う２人に感心しながらも、彰尋は空き屋の件を相談してみる。すると荒太郎が、
「街の西に空き屋通りってあるらしいでがんすよ。黒兎先輩もそこでお店始めるって言ってたでがんす」
と教えてくれる。そして２人が即興で披露してくれた歌を楽しませてもらい、また再会を誓って別れた。

　こうして友人達の助けによって手頃な空き屋に当たりを付けた彰尋。その持ち主との交渉の前に資金を作ろうと、冒頭の状態になっていたのだった。
　この世界では調味料はあまり豊富ではないのであろう。味見をさせたら市場の店主は驚いて、結構なお金と交換してくれた。
　しかし、１番威力を発揮したのは梅コンブだった。空き屋の持ち主との交渉の際、出されたお茶らしきものと一緒にいいかもと彰尋が家主に勧めたら、えらく気に入ってくれたのだ。梅コンブと引き換えくらいの勢いで交渉はとんとん拍子に進み、彰尋は無事空き屋を手に入れることが出来た。
（梅コンブの美味しさって世界を超えるんだな……）
　内心で舌を巻いた彰尋だった。

　この世界での拠点を手に入れることが出来た彰尋は、ギルドハウス『殻の家』の掃除に取りかかった。ただ、１人で今まで空き屋であったこの家を掃除するのは結構骨が折れそうだった。
（エスカルゴ先輩に手伝って貰おうかな……）
　一瞬そう思ったが、あの白い肌を思い出し、ふるふると首を振る。……先輩にこの大掃除なんかさせたら倒れてしまうかもしれない。
　彰尋は１人地道に掃除を進めるのだった。