無機質ワールドとオカシな戦士｜リアクション

無機質ワールドとオカシな戦士

【オカシ戦士達は革命の夢を見るか？】

　そこは無寝子島のどこかにある謎の地下研究施設。
　薄暗い地下施設の最深部には巨大な液晶モニターが設置され、そこには駅ビル『mukishi』の前で激しい抗争を繰り広げる革命団と警備隊の様子がありありと映しだされている。
「ついに始まってしまったようだね……」
　そんな巨大なモニターの前で、白衣の少女――恵御納夏朝が静かにそう呟いた。
　十数分前、小劇場ほどの広さのあるこの研究施設には革命を目指して集まった大勢のオカシ戦士達の姿でひしめいていた。
　しかし、今はもう夏朝を除いて、もう誰もいなくなってしまっていた。
　すでに先発の部隊は駅ビル前で居並ぶ無機質警備隊達と激しい攻防戦を繰り広げている。
（……僕にはここで待っていることしかできないのか）
　モニターを見つめる夏朝の表情が少し曇る。彼女の専門は発明ではあるが、革命軍の一員であることに変わりはない。
（……みんな必死で戦っているというのに、僕はこんなところで何をやっているのだろう？）
　誰か一人はアジトに残るべきだということで、みんなで決めた役割分担にしたがったまでのことだったが、やはり歯痒い気持ちは抑えきれない。
　夏朝が無力感を噛みしめながら、シリアスに決めていたまさにそのときだった。
「あれ？　みんな、どこ行っちゃったのかなぁ？」
　緊張感のない笑顔を浮かべながら、革命団の一人である岡野丸美がアジトに入ってきた。
「……え？」
　夏朝は驚いて、目を見開いた。
「……岡野さん、こんなところで何をやってるの？」
　思わずそう訊いてしまう。
「え？　何って……、今日はオカシ革命団の決起集会があるんだよね？　私、そう聞いて来たんだけど」
　丸美は人懐こい顔を小さく傾げて、夏朝にそう訊き返した。
「……もうとっくに終わって、みんな行動を開始してるよ？」
　夏朝が巨大なモニターに映し出されたオカシ戦士達の戦いの様子を指差しながら言った。
「……え？」
　目を丸くして、モニターに映る景色とその左上に表示された現在時刻を見やる丸美。
　それからゆっくりと丸美は自分の腕時計へと視線を落し――。
「……時計、止まってたみたい」
　てへっと笑って、小さく自分の頭を小突いた。
「…………」
　夏朝は、もう呆然としているしかなかった。
「……ま、まあ、時計が止まってたんなら仕方がないよね」
「うん。これはきっと不幸な事故だったのよ。でも、大丈夫。今から全速力で『mukisihi』に向かうから！　私、頑張るわ！　だって、私甘いもの大好きだもん！　……辛いのも好きだけど」
　ぽつりと最後に不穏で致命的な感じのする呟きを残しつつ、丸美はパタパタとまた出入り口に向かって走っていった。
　全速力、というには、あまりにもマイペースで彼女が駅ビルに到着する頃には全てが終わっていそうな気がしなくもない――そんな全速力だった。
「……」
　夏朝はそんな丸美の背中を無言で見送り、
「……やっぱり僕自身も武器を持って戦おう。僕だって、発明家であると同時にオカシ革命団の一員だ……！」
　と、この瞬間に戦いへ参加する決意を新たにした。
「よし！」
　夏朝は、すぐそばに置いていた秘密兵器――シュネーバルランチャー（ドイツの菓子『シュネーバル』を撃ちだす砲である）にさっと手を伸ばし、戦いの支度を進めるのであった。

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