ある日の出来事。-1月その2-｜リアクション

ある日の出来事。-1月その2-

　今日は天気がいい。
　八神修はシーサイドタウンの屋外催事場でやっているイベントがあると聞いて、気分転換にふらりと出かけた。

　そこではとあるメーカーの、新車とバイクの展示発表会が行われていた。どうやら、広場を活用して試乗もできるようになっているらしい。
　修はバイクが好きだ。外観も、感触も、乗車姿勢も好みだし、エンジン回転等、音としても楽しめる。
　四輪は法律的にまだ免許を取れないが、二輪なら持っているし……とついつい、あちらこちらに目がいってしまう。
　修の身なりで出身を察してか、積極的に説明をしてくれる人もいたが、実際に試乗してみたかったので適度なところで話を切る。
　コーンを器用にターンさせると、見ていた何人かから、おおっ、という歓声が上がった。そんなに難しいことをやったつもりはないが、どうやら他の人の目にはカッコよく映ったらしい。それならそれで光栄だ。
　乗ってみた感じ、良かったもののパンフレットを何冊か貰い、最後に試乗アンケートに記入した。
　当然ある居住地欄に「星ヶ丘」と記入すると、これまた当然のように名刺を渡された。
（まあ、そうなるよな）
　内心で苦笑しつつも表面上は爽やかな笑顔で受け取り、そっと名刺入れにしまう。
　イベントはなかなか楽しく、パンフレットによると春にはモーターショーもあるという話だ。
　帰ったら運転手に相談して、参加できるよう予定を調整しようと思った。
（それはそうと……バイクに乗ったら、もっと乗りたくなってきたな）
　家に帰るか？　とも思ったが、一度シーサイドタウンまで出てきてしまったし、自宅に戻るまでにこの熱は冷める気がする。
　ゲームセンターのバイクレースでもいいから乗りたいな、と考えた時思い出したのは、シーサイドアウトレットにあるゲームセンターの存在だった。

　ゲームセンター内を見て、修は大型稼働筐体が廃れていくのを寂しく思う。
　結局のところ、場所を取る上客を選ぶから儲からないのだ。そのくせ電気代も食う。店側にとってメリットはあまりない。
　しかしここのゲームセンターはなかなか客に恵まれているようで、大型稼働筐体の数も充分だった。某有名なレースゲームなど、店内対戦限界可能なまで台数が用意されている。
　立地が良いのだろう。客も入るし、儲けも取れる。だから廃れない。こういう店がもっとあればいいのだが、と思いながら見て回っていたら、
「お」
「あ」
　日向と偶然、遭遇した。
「なんでおめーひとりでこんなとこにいんだよ」
「なんでって……ゲームをするため、かな？　菱屋は？」
「ゲーセンだからゲームするためだろうが」
「そりゃそうだ」
「そうだろうよ」
　微妙に噛み合わない会話を愉快に感じていると、「あ、今こいつおれのことバカにしてる」と言われた。そんなつもりではなかったのだが。とにかく勘はいいらしい。
「一人だったのはな、イベントに行った帰りだったからだよ」
「イベント？」
「この近くの屋外催事場でバイクや車の展示が行われていたんだ。二輪なら免許があるしさ、何かいいのがあれば……って」
「通学にバイクってダメだろ、たしか」
「いやいや、通学には使わないよ。通学は主に自転車で、たまに送迎、かな」
「緒方んとこみてー」
「緒方さん？　ああ、彼女も星ヶ丘住まいだっけ」
「ずりーよなー送迎。遅刻しねーでいいし、楽だし」
「菱屋は何で通学してる？」
「おれ？　走ってるよ、走るのすきだから。あーうん、すきだからべつに送迎とかいらねーや」
　一人納得する日向の横で、そういえば、どこかで彼の趣味がパルクールだと聞いたことがあったな、と思いだした。見たことはなかったが、日向は小柄で俊敏そうだし、さぞかし見事なパフォーマンスを繰り広げるだろう。
「で、どうする？」
「は？」
「せっかく会えたわけだし……何か一緒に遊ぶか？」
「別にいーけど。坊っちゃんゲームとかすんのかよ」
「坊っちゃんって言うな。なかなかのものだと自負しているぞ？　格闘でもシューティングでもなんでもござれだ」
「おー言ったな。泣いてもしらねーぞ」
「どっちが泣くかな？」
「泣かす」
「よし、かかってこい」
　こうして遊んでいると、あっという間に時間は経過してしまう。
「やべ……おれ帰りの交通費尽きた」
「ばっ、そこまで遊ぶか！？」
「つい熱が入りすぎて。わりと楽しかったぜ」
「俺もだ。対等に遊べる相手なんてなかなかいないからな」
「わかる。また今度遊ぼうぜ、次は泣かすけど」
「はは、言ってろ」
　そうして充実した時間を過ごした修は、日向と別れて帰途についたのだった。

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