死と隣り合わせの節分～鬼はフジコ～｜リアクション

死と隣り合わせの節分～鬼はフジコ～

『町に現れた存在は、豆で対処できます。職員室に置いたので、護身用にご活用下さい。繰り返します――』
「節分の鬼というなら、もっと鬼らしい格好が良かったわ」
　修の校内放送を聞きながら、美野梨は博士に指示に従い、メイン機を倒せる液体に豆を溶かしていた。
「といっても、虎柄のパンツをはくのは嫌がるでしょうね」
「気が向けばするかもしれんぞ」
「え、するの？」
「ただし、恥じらって見た者をジェノサイドするじゃろうが」
　美野梨の頭に乗った千嵐博士がとんでもないことを言ってくる。
「ここにおびき寄せればいいのね？」
　手伝っている葉月が聞いた。
「うむ。この水をかけても直接効果はあるが、さきほど述べた作戦で沈めた方が確実。メイン機は豆をぶつけても意味がない」
「それで、納得したよ」
　サキリは、バケツの中で糊と豆を混ぜ合わせている。対フジコ用の切り札だ。
「弱点があるとはいえ、山荘の奴より戦い易かったからね、気になってたんだ」
　もう、山荘の悲劇は起こさせない。
　サキリの目は決意に満ちていた。
「奴に分かる信号を発信した。もうそろそろ、すべてのフジコタイプが来るぞ」
　博士のその言葉通り、ほどなく爆撃が始まった。

　武道は校庭に出て、フジコを待っていた。彼のほかにも、用務員さんや教師たちがフジコをおびき寄せる役目を買ってスタンバイしていた。
　そんな彼らを、空から現れたフジコが無慈悲に爆撃していく。
「貴方ノ知ラナイ闇ニウェルカム！」
「せ、先生！　その他の職員さん！」
　戦場さながらのグラウンドで、大人たちが死屍累々と倒れていった。
「フフフ」
　そしてなんでこっちに来るかなぁ。
　ジェット噴射で真正面に降り立った相手に、武道は泣きそうになった。
「生徒に手を出すなっ……ぐはぁ！」
「教頭先生！」
　死角から豆を投げようとした俊介が、先んじてフジコホールドを受ける。
「志波君、逃げろ。作戦は失敗……だ」
「フジコデスキッス！」
「うぐあ！？」
　俊介が白目を剥いた。
「う、うわあああ！」
　武道の瞳が恐怖に染まった。校舎に向かって走り出す。
「うわぁんジェノサイダーこわいちょうこわぁい！」
『ルンタッタ～ルンタッタ～♪』
　後ろからは軽快な死の息吹が追ってくる。
　武道には分かっていた。フジコが遊んでいることが。
　あとどれくらい走れば逃げ切れる？
　みんな、みんなアイツに――。
　開いた窓に飛び込もうとした瞬間、首筋にフジコの息がかかった。
『ツッカマエタァ』
「う、おおおおお！」
　死のデジャヴュに武道は叫んだ。
「いまだ……投げてくれ！」
　転瞬、サキリが上階の窓に瞬間移動していた。そして糊と豆の混合物をバケツごとフジコの頭に投げて被せる。
「――！？」
　咆哮が轟いた。しかし一種の納豆と化した豆は離れず、震えるフジコから次々と火花が上がる。
「もう、繰り返させない」
　サキリが言った。フジコが爆発する。
「やったな」
　武道が息を吐いた。遠くで俊介もサムズアップをしている。無事だったか。
　残るフジコは、あと三体。