冬の日。新たな始まり｜リアクション

冬の日。新たな始まり

　椿美咲紀の１人百面相は朝から見応えがあった。
　星ヶ丘寮を出ようとした美咲紀は、まず空を見上げた。
（おや、朝から雪なのです）
　ほええと白く点描のカーテンが引かれた世界を眺めていると、だんだんとテンションが上がってくる。
「わーい雪だ雪だー♪」
　玄関から飛び出し、くるりくるりとひとしきり雪と遊ぶ。そしてハタと気が付いた。
（……どうやって学校に行きましょう？）
　まだ降り始めで積もってこそいないが、この後ドカ降りにならないとも限らない。その時雪慣れしてない自分はどーなるか。
　転ぶ自信がありまくり。……危険なのです無謀なのです！
　雪の中、美咲紀は１人うむむと腕組みをして考える。すると、１台の高級車がスッと静かに美咲紀の前で止まった。ウィーンと開いた窓からは。
「……美咲紀、笠地蔵みたいだぞ？」
「わお！　シュー君！」
　この天気に美咲紀の事を心配した八神修が、車で彼女を迎えに来たのである。
　おおう、天からの助け！　騎士シュー君の登場なのです！

　そして、２人を乗せた車は勿論の安全運転で、滑らかに寝子島高校校門前に停車した。今の今まで車内は「雪ですよシュー君！」とはしゃぐ美咲紀の声で、何と賑やかだった事か。
　そんな美咲紀と修を微笑ましく見守ってくれていた運転手が、２人のためにドアを開けてくれた。美咲紀は「ありがとう」とにこやかにお礼を言って車を降りた。
　高級車から降りてきた美咲紀に周囲は目を丸くする。美咲紀は、
「お姉さま方、ごきげんよう」
と、穏やかな笑顔で挨拶をした。
　次いで降りた修がお、と眉を上げる。
「あれは、野々と……あおいか！」
　校門を入ってすぐの所を仲良く並んで歩いていたショートカットとツインテールの女子が、修の声に振り返った。
「あ、修くんと美咲紀ちゃんだー」
「２人ともおはよう！」
　野々ののこと七夜あおいである。修と美咲紀も笑顔で挨拶を返し、４人並んで歩き出した。

「修君宿題やった？　私ちょっと心配な所があるんだけど……」
「宿題？　ああ、大丈夫だ。そうだ、野々もだけど今日放課後学食に行かないか？　渡したい物もあるし」
「うん、いいよ」
「学食学食何食べよっかな～♪」

　２人と約束をしながら、修はあおいの笑顔に幸せを噛み締めていた。
　新学期の最初に、教室に入るより早くあおいに会えるなんて嬉しい。
　新年、初詣で会ったはずなのに。１週間くらいしか会えなかっただけなのに。どうして君の笑顔に会えない事に堪らなく苦しい思いをし、君の笑顔に会えただけで全て報われた気になるのだろう。
　新学期。これからまた始まるあおいがいるフツウに、密かに心躍らせる修だった。

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　そして、そんな４人の会話を小耳に挟んでいる人物がいた。
（『宿題大丈夫』とか、何て頼もしい言葉なの八神君……！）
　そう、未完の宿題を人間力で何とかしようと目論む桃川圭花である。しかしどうやら修の宿題はもう売約済みらしい事も察知し、さてどうしようと思案し始めた時、彼女に声をかける人物がいた。
「おはよう、桃川さん」
　圭花と同じ演劇部の天之川麗仁である。真面目で博識な麗仁の登場に圭花の目が光り輝いた。
「おはよう！　おはよう、天之川君！」
「う、うん、おはよう……？」
　圭花のテンションに思わず麗仁は１歩後ずさったが、圭花が逃がす訳もない。がっしりと彼の両手を握り締めて詰め寄る。そんな２人に新たにのんびりした声がかかった。
「あれ……？　おはよう、天之川君、桃川さん」
　彼らと同じ演劇部員の恵御納夏朝である。キュピーンと圭花の両目が夏朝にも照準を合わせた。
「恵御納さんもおはようー！　朝から２人に会えて、私、すごく嬉しい！」
　ガシリ。圭花の長い腕が、夏朝の手を掴む。戸惑う２人に、圭花は満面の笑みを浮かべていた。
　―――凄いぞ、圭花の捕食……ゲフンゲフン……人間力！