冬の日。新たな始まり｜リアクション

冬の日。新たな始まり

【放課後・寝子島小学生】
【昼下がり・社会人（２）】
【放課後・寝子島高校生（３）】

「今日も一日、楽しかったねぇ」
　寝子小を出た曖浜瑠樹。満足そうにそう言うと、空を見上げた。
「雪もまだ降ってるし、何だかワクワクするよぉ」
　朝から降っている雪は、勢いこそだいぶ弱まったものの、まだ降ったりやんだりを繰り返している。
　瑠樹は、この神魂の影響を受けた雪の効果をもろに受けた。
　もともと何でも楽しんでしまう瑠樹。今日はいつにも増して楽しくなってきたのだ。
（何だか今日は……ひゃっほーいって遊びに行きたくなるねぇ！）
　瑠樹の家はシーサイドタウンにあり、寝子小からも近く、本来すぐに帰れる距離だ。
　けれども瑠樹はてってけと家に続くはずの道を通り過ぎた。
　わくわく。わくわく。瑠樹はどんどん歩いて行く。
「よぉーし、旧市街までお散歩だぁ！」

　旧市街は帰りの学生達の姿も増え始め、活気に満ちていた。わくわくきょろきょろと見回しながら歩いていた瑠樹は、ふと足を止めた。
「駄菓子屋さんだぁ！」
　その店先には色取り取りのお菓子が並び、瑠樹に見て見てとアピールする。……どうしよう、何か買ってみようかなぁ？
　瑠樹はごそごそとポケットの中を漁った。
（５０円……ううん、今日は……１００円までなぁ！）
　雪の影響か、瑠樹くん大奮発。勇んでお店に入っていくのだった。

　駄菓子で１００円だと、実は結構買えるものだ。
　瑠樹は上手に買い物をしそのお腹を少し満たすと、散歩を再開する。
　裏道に行ってみたり、隠れているにゃんこを探したり。色々な所を回ってみる。
　そして、何やら店先にポスターを貼っているお姉さんを見つけ、話しかけた。
「こんにちはぁ！」
　お？　と振り向いたのはお好み焼き『うさぎ屋』店主、宇佐見満月だ。
「あれ、見ない顔だねぇ。学校帰りかい？」
「うん、そうだよぉ。お姉さん何してるのぉ？」
　『おばさん』と呼ばれなかった事に気をよくした満月。「躾が出来てる子だねぇ」と言いながらパンパンと今貼ったばかりのポスターを叩いた。
「ポスターを貼ってるのさ。こいつはね、うちの新しいメニュー『たいふう焼き』だよ。自信作さね」
　ポスターにはお好み焼きのようなものが巻いてある写真。とても美味しそうなその『たいふう焼き』に、お昼を食べていない瑠樹は目が釘付けになった。
「どんな食べ物なのかなぁ？」
「お好み焼きの生地にかつお節とスルメを載っけて、ソースを塗って巻いてあるのさ。アンタみたいな小学生に、気軽にお腹いっぱいになって欲しくてねぇ。考えてみたのさ」
「へぇ、すごいんだぁ！」
　瑠樹はますます食べてみたくなって、またポケットを漁ってみる。しかし出てきたのは５０円玉１枚だった。
「これしかないやぁ……」
　しょげる瑠樹。しかし満月はそれを笑い飛ばした。
「何言ってるのさ！　小学生用のメニューだって言ってるじゃぁないさね！　それでも十分お腹いっぱいになるさ！」
　そう言うと満月はパンと瑠樹の肩を叩いた。
「さ、店に入るさね。『たいふう焼き』お客さん第１号だ。いっぱい食べてきな」
　その言葉に瑠樹は顔を輝かせた。
「お姉さん、ありがとうなぁ！」
　満月は笑って頷くと、瑠樹を店に招き入れる。そして『お姉さん』のお礼に、ちょっとおまけして瑠樹に『たいふう焼き』を作ってやるのだった。