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- 00月00日生 00歳
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冬の日。新たな始まり
始業式という行事も終わり、生徒達は思い思いに自分の場所に散っていく。そんな自由な空気の流れ。放課後は学校の空気が緩んでくるのが感じられる気がする。
そんな事を思いながら、三宅 葉月はいつものように美術教室へ向かっていた。
まっすぐ、星ヶ丘寮へ戻るつもりにはなれなかった。といって、どこか立ち寄るつもりにもなれない。
彼女が美術教室へ足を向けるのは、結局、適当に時間を潰すためだけだ。スケッチブックを道連れに。
美術教室はがらんとしていた。石膏像の陰影も、何だか寒そうだ。
葉月は１人、適当な椅子に腰掛けて、スケッチブックを開く。開いてはみたものの、何となく集中できないのか、今ひとつ絵を描く気になれない。
しばらく適当に鉛筆を握った手を動かしてみたものの、結局葉月はスケッチブックを閉じた。
紙をめくったその白さが痛かったのだ。
その白さは、自分の前に頑然と立ちはだかる壁に見えた。
壁を、越えなければならない。
それが、どんなに高くなっても。どんなに、自分に牙を向けても。
逃れることはできないのだから。逃れられないなら、越えなければならない。
遺伝子という螺旋の鎖が、彼と私を繋いでいる。それを断ち切ることは不可能なのだ。
葉月はスケッチブックを膝に置いて、身じろぎもせずに端然と椅子に座っている。
もし、今誰か生徒が教室に入ってきたら、こう思うかもしれない。制服を着たアンティークドール。
彼女がそこにいるだけで、透明感のある静謐な空気に満たされていく。そこに生々しい生の卑猥さはなく、その汚れのなさは、人に近づきがたい印象を与えるかもしれない。
人形めいた彼女の沈黙は、不意に破られた。
何かしら思いついたのか、葉月の手が急に動き出す。鉛筆がスケッチブックの上を滑る音が美術室に聞こえ始めた。
彼女が奏でる音は、未来を紡ぐための音だ。
彼女は、未来をスケッチブックに紡ぐ。
いつか、壁を越えるために。
＊＊＊＊＊
図書委員の綾辻 綾花はその仕事をすべく、北校舎３階の図書室にいた。
図書室には、誰もいない。音が全て本に吸い取られた空気はまるで異世界。１人カウンターを整理しながらも、ほんの少しだけ綾花が寂しい気持ちを覚えた時、ガラリと扉が開いた。
「……珪先生！」
「遅くなってしまったね、綾辻さん」
司書の早川 珪だ。扉を閉めながら綾花に悪かったねと謝った。
「いいえ、大丈夫です。利用者もまだ来てませんし。あ、珪先生……今年もよろしくお願いします」
綾花は丁寧に頭を下げる。珪が慌てて姿勢を正した。
「や、こちらこそよろしくお願いします……？」
突然の改まった挨拶に戸惑っている風の珪。綾花がふふと笑って首を傾げた。
「仕事始めですから」
「ああ、そうか。うん、今年も頑張ろうね」
なるほどと珪も頷き、２人は微笑み合った。
「珪先生は初詣の後はゆっくり休みを過ごせたんですか？」
学校が始まったばかりの生徒達には、本を借りるという余裕はまだ無いのだろうか。利用者も来ず、２人は冬休みの時の思い出話をしながら、その穏やかな空気を楽しむ。「冬休みは結局忙しかった」と話しながら、珪がうーんと伸びをした。
「はぁ、ようやく人心地つくよ……って不謹慎かな」
綾花しかいない気安さだろうか、珪はそう言った後、少しバツ悪く肩を竦める。綾花は穏やかに首を振った。
「いいえ……図書室は落ち着きますよね」
（さっきまでは少し寂しかったけど、今は本当に落ち着ける）
珪を前に、心から思う綾花だった。
図書室での時間は静かに過ぎていく。
綾花は本を整理整頓し、忘れ物は整理して珪に渡す。ふとカレンダーを見た綾花は、そうだと珪を振り返った。
「先生、あと一ヶ月ぐらいでバレンタインなので、お菓子作りの本をディスプレイしてもいいですか？」
「あー、もうそんな時期か。うん、お願いするよ」
珪が頷きながらも、年を取ると時間が過ぎるのが早いと苦笑する。そんなことないですよと笑いながら、綾花は目立つ場所に関連本を並べ始めた。
お菓子作りの本はどれもこれも可愛らしい。特にチョコに的を絞った本はハートマークが表紙を飾り、いかにもバレンタイン仕様だ。
（やっぱりチョコは手作りしたいですよね）
ふと手を止め、綾花はパラパラとその本をめくる。そこには様々なチョコを使ったお菓子の作り方が載っていた。
リボンとともに可愛らしく写っているチョコのお菓子。……どれが先生は好きだろうか。
（……先生に渡せるといいな）
赤くなりながら綾花は本を閉じ、それを胸に珪のいるカウンターに歩いて行った。
「先生は、どんなチョコが好きですか……？」
そんな事を思いながら、三宅 葉月はいつものように美術教室へ向かっていた。
まっすぐ、星ヶ丘寮へ戻るつもりにはなれなかった。といって、どこか立ち寄るつもりにもなれない。
彼女が美術教室へ足を向けるのは、結局、適当に時間を潰すためだけだ。スケッチブックを道連れに。
美術教室はがらんとしていた。石膏像の陰影も、何だか寒そうだ。
葉月は１人、適当な椅子に腰掛けて、スケッチブックを開く。開いてはみたものの、何となく集中できないのか、今ひとつ絵を描く気になれない。
しばらく適当に鉛筆を握った手を動かしてみたものの、結局葉月はスケッチブックを閉じた。
紙をめくったその白さが痛かったのだ。
その白さは、自分の前に頑然と立ちはだかる壁に見えた。
壁を、越えなければならない。
それが、どんなに高くなっても。どんなに、自分に牙を向けても。
逃れることはできないのだから。逃れられないなら、越えなければならない。
遺伝子という螺旋の鎖が、彼と私を繋いでいる。それを断ち切ることは不可能なのだ。
葉月はスケッチブックを膝に置いて、身じろぎもせずに端然と椅子に座っている。
もし、今誰か生徒が教室に入ってきたら、こう思うかもしれない。制服を着たアンティークドール。
彼女がそこにいるだけで、透明感のある静謐な空気に満たされていく。そこに生々しい生の卑猥さはなく、その汚れのなさは、人に近づきがたい印象を与えるかもしれない。
人形めいた彼女の沈黙は、不意に破られた。
何かしら思いついたのか、葉月の手が急に動き出す。鉛筆がスケッチブックの上を滑る音が美術室に聞こえ始めた。
彼女が奏でる音は、未来を紡ぐための音だ。
彼女は、未来をスケッチブックに紡ぐ。
いつか、壁を越えるために。
＊＊＊＊＊
図書委員の綾辻 綾花はその仕事をすべく、北校舎３階の図書室にいた。
図書室には、誰もいない。音が全て本に吸い取られた空気はまるで異世界。１人カウンターを整理しながらも、ほんの少しだけ綾花が寂しい気持ちを覚えた時、ガラリと扉が開いた。
「……珪先生！」
「遅くなってしまったね、綾辻さん」
司書の早川 珪だ。扉を閉めながら綾花に悪かったねと謝った。
「いいえ、大丈夫です。利用者もまだ来てませんし。あ、珪先生……今年もよろしくお願いします」
綾花は丁寧に頭を下げる。珪が慌てて姿勢を正した。
「や、こちらこそよろしくお願いします……？」
突然の改まった挨拶に戸惑っている風の珪。綾花がふふと笑って首を傾げた。
「仕事始めですから」
「ああ、そうか。うん、今年も頑張ろうね」
なるほどと珪も頷き、２人は微笑み合った。
「珪先生は初詣の後はゆっくり休みを過ごせたんですか？」
学校が始まったばかりの生徒達には、本を借りるという余裕はまだ無いのだろうか。利用者も来ず、２人は冬休みの時の思い出話をしながら、その穏やかな空気を楽しむ。「冬休みは結局忙しかった」と話しながら、珪がうーんと伸びをした。
「はぁ、ようやく人心地つくよ……って不謹慎かな」
綾花しかいない気安さだろうか、珪はそう言った後、少しバツ悪く肩を竦める。綾花は穏やかに首を振った。
「いいえ……図書室は落ち着きますよね」
（さっきまでは少し寂しかったけど、今は本当に落ち着ける）
珪を前に、心から思う綾花だった。
図書室での時間は静かに過ぎていく。
綾花は本を整理整頓し、忘れ物は整理して珪に渡す。ふとカレンダーを見た綾花は、そうだと珪を振り返った。
「先生、あと一ヶ月ぐらいでバレンタインなので、お菓子作りの本をディスプレイしてもいいですか？」
「あー、もうそんな時期か。うん、お願いするよ」
珪が頷きながらも、年を取ると時間が過ぎるのが早いと苦笑する。そんなことないですよと笑いながら、綾花は目立つ場所に関連本を並べ始めた。
お菓子作りの本はどれもこれも可愛らしい。特にチョコに的を絞った本はハートマークが表紙を飾り、いかにもバレンタイン仕様だ。
（やっぱりチョコは手作りしたいですよね）
ふと手を止め、綾花はパラパラとその本をめくる。そこには様々なチョコを使ったお菓子の作り方が載っていた。
リボンとともに可愛らしく写っているチョコのお菓子。……どれが先生は好きだろうか。
（……先生に渡せるといいな）
赤くなりながら綾花は本を閉じ、それを胸に珪のいるカウンターに歩いて行った。
「先生は、どんなチョコが好きですか……？」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2016年04月17日
- 参加申し込みの期限
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- 2016年04月24日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2016年04月24日 11時00分
