冬の日。新たな始まり｜リアクション

冬の日。新たな始まり

＜普通科２年２組＞

　２年２組のＨＲは、ごくごくフツウに進んでいる。
　グレーの上下スーツに身を包んだ初老の担任伊東大志の穏やかな話、たまの脱線は面白くない事もあるが、まあまあ静かに聞いている生徒達。何もかもがフツウの教室の光景である。
　そのフツウの中に大天使天吏がいた。

　人間らしい行動の学習・実践中である天吏。昨年の終業式でのＨＲでは余りの豹変ぶりにかえって目立ってしまい、妙な噂まで立てられてしまったのだが、新年の彼女は一味違っていた。―――いや、彼女の被る皮が一味違っていた、と言うべきか。

　何でもかんでも友好的にすればいいというものではない事を、彼女は前回の実践で学んだ。
　神魂の影響を受けた雪のせいもあってか、彼女の知的好奇心も増しているようだ。前回のミスを踏まえ、今回はＨＲそのものを天吏は冷静に観察した。黙って先生の話を聞く生徒達。その表情は様々だが、誰も目立たず、一様に皆同じ気配な気がする。
（これを真似ればいいのね）
　天吏は少し笑顔を控え、それでも空はあまり見ずに、大志の話を聞く姿勢を取る。するとふっと周囲の生徒に埋没する感覚を覚えた。
（これがフツウの人間のする行動なのかしらね）
　彼らの事など到底理解出来ないが、前回のＨＲよりははるかにマシであろう。天吏は少し手応えを感じていた。何となく自分に視線を感じる事もあるが、少なくとも凝視されてはいない。

（……段階を踏む事を覚えないといけないみたいね）
　天吏は周囲に溶け込みながら考える。
　―――それは擬態。いつか来る時のために薄皮を被り、天吏はじっと中からセカイを見つめている。