冬の日。新たな始まり｜リアクション

冬の日。新たな始まり

＜普通科１年２組＞

　厳しい指導で有名な担任桐島義弘が来る前のこの教室では。生徒がきちんと着席をして、思い思いに過ごしていた。
　そして思い思いに桃川圭花は宿題の追い込みをかけていた。

　登校中に同じ演劇部の天之川麗仁や恵御納夏朝を捕まえ、始業式の始まる直前まで助けてもらっていた圭花。校長の話を地団駄を踏みながら何とか過ごし、ＨＲが始まる直前のクラスでも、見事な闘志を見せていた。
（ああ、でもやっぱり間に合いそうもないわ。そうだ、日暮君やってないかしら？）
　~~無駄な~~一縷の希望を持って圭花は友人日暮ねむるの姿を教室内に探す。そして絶望した。
（……寝てるしー！！）
　気持ちよさそうにすーすー寝息を立てるねむる。頼みの綱は自分の席で机に突っ伏して爆睡していた。……いや、圭花さん、これは想定内でしょう。
　他には……と見回すと、朝鳥さゆるの姿が目に入った。
（あまり学校に来ない人だけど、確か成績が凄く良かったはず……！）
　じーっと彼女を見つめてみる。しかしどこを見てるのかぼんやりと座るさゆるの視線は、圭花とかすりもしなかった。
　刻々と近づく最期の時に、圭花は青ざめる。それでもあきらめないと宿題に向かい合っていた圭花に、可愛らしい声がかけられた。
「忙しそうですけどどうしたんですか……？　圭花さん」
　近くの席に座る御巫時子だ。圭花に一筋の蜘蛛の糸が垂らされた。
「御巫さん！　化学！　化学の宿題やってない？！」
　確か彼女は化学教師の五十嵐尚輝とよく喋っていたはずだ。圭花が全力で時子の手を掴み、時子が思わずのけぞった時、ガラリと教室の扉が開いた。
「何だ、騒がしいぞ！　……化学の宿題とか聞こえたが、まさかやってないんじゃないだろうな？　桃川」
　担任の桐島義弘が入ってきた。その姿に圭花が抜け殻になる。
　―――蜘蛛の糸がプツリと切れた。

　抜け殻の圭花に構いもせず、無情に義弘はＨＲを始める。
「そんなに宿題が気になるなら、宿題提出から始めようか。まず………日暮ねむる！」
　義弘の一喝にクラス全員の肩がびくっと上がる。しかし、当の本人は……。
「んぁ、桐島先生おはよございま……」
　片目をこすりながら起きるねむる。義弘のこめかみにピキリと青筋が立つ。
「日暮はもちろん宿題は全部やってきてるんだろうな？」
「え？　宿題は……っと、忘れちゃったかもですねぇ」
　のんびりしたねむるの答えに慌てるクラスメイト。彼らは義弘のこめかみにビキビキッと青筋が増えるのを見逃さなかったからだ。
「……日暮、冬休みをどう過ごしたのか放課後説明しろ。勿論他の宿題を忘れた奴もだ」
　まだ状況が掴めずぽやぽやしているねむる。青ざめる圭花他数名。この日の１年２組のＨＲはいつもより厳しめに行われたのは言うまでもない。