【お正月】寝子島書初め大会｜リアクション

【お正月】寝子島書初め大会

●偶然の遭遇

　御巫時子は、着物姿でお散歩の途中でした。
　星ヶ丘寮住まいながら和風の日本家屋に暮らす時子にとっては、着物もお正月だけのものではありません。
「そういえば、駅前で書初め大会が開催されるみたいですね。少し寄ってみましょう」
　どのような作品が書かれるのか、作品はもちろん書いてる姿も見ています。
　飾られた作品の中で、子供らしい文字が目に留まりました。
（『イチゴ』ですか……なんだか苺が食べたくなってきました）
　それだけでなく、『げんき』と書かれた文字を見たら元気が出てきた気がしました。
（この急な変化は神魂の影響でしょうか……？）
　何となくそんなことを感じつつ、大きな筆で書いている人の姿を見て、筆の使い方を勉強していると。
「……鳥になった夢を見た気がするの！」　
　そんな言葉が耳に飛び込んできて、時子は肩をピクリと震わせました。
　そちらへ視線を向けた時子でしたが、目に飛び込んできたのはなんということか。
　どうやら同じように顔をそちらへ向けたものらしい、コート姿の五十嵐尚輝先生の顔でした。
「尚輝先生……！」
「おや……」
　夢のような偶然に、時子は感謝しました。

　五十嵐の元に駆け寄り、時子は話しかけました。
「こんにちは……あの、もしお時間があれば少しでも一緒に見てまわりたいのですが……」
「時間はありますね。正月くらいは理科室を出て買い物に来たところです。御巫さんも書初めをするんですか」
「見てると私も書きたくなりますね……では、飛び入り参加で書初めします」
　汚れないように襷がけをして、時子は大きな筆を取りました。
（さて、何を書きましょうか）
　しばらく考えて、時子は筆を動かし始めました。
　書道は習っていたので達筆です。
　筆を持っての移動は少々重くても、歩みに迷いはありません。
　見ていた五十嵐が、ほうと感心の言葉を漏らしました。

　光陰如流水

（悔いの無いように大切に過ごしたいですね）
　書き終えた時子は、五十嵐の元へ戻っていきました。

　いかにも和風なたたずまいの時子の書初めを見ていた七星は、満足感に満たされていました。
（私自身、もしかすると一番楽しんでいられるのがお正月の間なのかもしれませんわね？）
　和の世界は自分の住んでいる世界だと、七星は思っています。
（皆様にも知ってもらいたいし、住んでもらいたいのですわ。もちろん強制はできませんが、理解をしてもらえるのなら、私はとても嬉しいのです）

「気持ちよく書けました。先生のご感想は、いかがですか？」
　五十嵐に、時子は微笑みかけました。
「上手なので驚きました。重くはなかったですか」
「そうですね……少し重かったです。先生の気になる文字は何ですか？　書くとしたら、どんな言葉にされますか？」
　好きな人のことなら何でも知りたい。時子は期待を込めて五十嵐を見つめましたが。
「僕は気になる文字は特にありませんが。……墨流しならやってみたいですね」
　いかにも五十嵐らしい答えが返ってきました。
「墨で模様を作るものですね？」
「ええ。墨は、ススとニカワを混ぜて練って作られていますが、ニカワは、動物の骨や皮膚組織の成分で……」
　五十嵐が説明を始めました。すでに自分の世界に入り込んでいるようです。
　彼には文字よりも、墨の化学成分のほうが興味深いのでしょう。

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