【お正月】寝子島書初め大会｜リアクション

【お正月】寝子島書初め大会

●大きな筆に挑戦！

　燃えるような赤い髪の日独クォーターの神薙焔は、振袖姿で駅前にやってきました。
「書初め大会？」　
（中学まで外国にいたから、習字とか書道とかってしたことなかったわね、最近はパソコンとかスマホで書くし……手書きで漢字を書くのはあまり得意じゃないわ）
　そう思いつつ、焔はなんだかわくわくする気持ちを感じていました。
「でもまあ、なんでもやってみるものよ、面白そうだから参加してみよう」
「まずはお手本をよく観察して」
　払いやはねの技法を使い黒々と墨で書かれた文字は、印刷されたものとは全然違いました。
（バランスや見栄えも大事だけどペンを使ったカリグラフィーとも違う、ちょっと面白くなってきたわね……）
　漢文は苦手な焔ですが、漢字自体が嫌いというわけではありません。
「まずはシンプルな題材で……」
　横線を二本、それから縦線、斜め……と筆を動かしていきます。

　未来

「っと、まあいい出来なんじゃないかしら？」
　シンプルな線を使っていながら、とても夢がある壮大な単語です。
　焔はうんうん、と頷きできばえに満足しました。

　ふと隣のコーナーを見ると、書きあがったばかりの大きな作品が展示されるところでした。
「……ほう、大きい筆を使ったパフォーマンスができる、せっかくだから、これもやってみよう」　
　そこへ、美咲紀がやってきました。
「大きな筆に挑戦するんですか？　寝子高新聞部なのです、取材させてもらえませんか？」
「いいけど、あなたも参加してみたら？」
　焔が言うと、美咲紀は元気に答えました。
「勿論私も飛び入り参加するのです。大きな筆で大きな字を書ける機会はそうそう無いですよ。自宅じゃ無理です。そもそもこんな箒みたいな筆がありませんからねっ」
「そうね。確かに箒みたい。でも振袖ってこの箒を扱うにはちょっとジャマね。紐で留めようかしら」
「襷がけするといいのです。手伝いましょうか」
「それじゃ、お願いするわ」
　美咲紀は会場に用意されていた襷を借りると、手際よく焔の袖に通し結びました。
「実家が神社なので着物のことは任せてください。書道系の事も小さい頃からしてたのです」　
「すごいわね、私は中学まで外国住まいだったから全然わからないけど、日本人でも和風のことはわからない人が多いものね」
　感心しつつ焔は言いました。
「先にお手本を見せてちょうだい。よかったら私があなたの書いてるところを撮影するわ」
「それじゃ、お願いするのです」
　美咲紀はレコーダーとカメラを焔に渡すとスタッフに声をかけ、大きな筆を持った。
「恐れることなく、筆を動かすのですよ」
　潔い筆さばきで、美咲紀は竹かんむりを、そしてその下にカタカナのノの字を描きます。最後に伸び伸びとした大の字。
　大きく一文字。

　笑

「笑い？」
「皆で楽しく笑顔で過ごせると良いじゃないですか。『笑』という字の成り立ちは、両手を挙げ、舞い踊る巫女象形文字らしいのです。踊って神様を楽しませて～ということから始まっている雰囲気。そんな気分で１年過ごせると良いですね、という願いをこめて元気良く書きましたです」
「なるほど、おめでたい文字ね」
　感心する焔に、美咲紀は思い切り良い笑顔を向けました。
「うん、良い字が書けました！」

「今度は私の番ね」
　レコーダー等を返し、焔が新しい紙の上に上がります。　
「腰をすえて、軸足を固定して勢いよく！」
（大字書は大きな文字を1～2字書くのがいいみたいね）
　左に日、そして上のほうに横線、縦線……くっきりと書きあがった一文字は。

　暁

「おお、これもおめでたいのです！」
「日の出とか、新年ぽくていいわよね」
　ちょうど雲の間から差し込んできた光が二人を照らしました。
　それは焔の赤い髪を、朝日のように輝かすのでした。

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