【お正月】寝子島書初め大会｜リアクション

【お正月】寝子島書初め大会

　あおい、という言葉が聞こえて、書き初め宿題コーナーにいた鴻上彰尋は思わずそちらを見てしまいました。
「どうしたの？」
　手を引いている弟と妹に聞かれ、慌てて習字道具を示します。
「なんでもない。それより、書初めの宿題があるんだろう？　ここで書いていかないか」
「えー？　あそびにきたのに……」
　ぶつぶつ言う弟妹を彰尋はなだめます。
「兄ちゃんも一緒にやるから頑張ろう」
（大勢でわいわいやっているところなら、やる気が出るかもしれないしな）　
　そう思っているところへ、美咲紀がにこにこと声をかけました。
「小学生達も頑張って書いているかなー？　こんにちは、寝子高新聞部ですが、インタビューと写真を掲載させてもらえませんか？」　
「しんぶん？　しんぶんにのるの？」
「しょうがないな、がんばるかー」
「おいおい、新聞って言ったって学校の新聞なんだぞ……」
　俄然張り切る弟妹に苦笑しつつ、彰尋はせっかくのやる気を逃せないと思いました。
「名前や顔の掲載はなしで、二人の作品だけなら」
「わかりましたー」
　美咲紀が返事をしている間に、二人はさっそく書き始めます。

　イチゴ

　げんき

「小学生らしい元気な文字ですね！　ありがとうございました」
　インタビューと撮影を終えた美咲紀はお礼を言ってその場を去りました。

「上手にできた！　なんだかいちごが食べたくなっちゃった」
「うん、ぼくも、元気でてきたみたい」
「よく書けたな」
　それを微笑ましく見守りながら、彰尋が二人の頭を撫でてやっていると。
「あれ、彰尋くん」
　思わぬ人の声に、彰尋の心はドキンと弾みました。
「あおいさん……」
「こんにちは。書初めしてたんだね。私も買い物が済んだら寄ろうかなあ」　
　七夜あおいが笑顔で立っていました。
「にいちゃん、顔がいちごみたい」
「黙ってろ……」　
　努めて平静を装い、彰尋は言いました。
「彰尋くんも書くの？」
　期待をこめたあおいの視線に。
「ああ……」
（新たな一年、せっかくだから心に決めたことを書いてみようかな）
　彰尋は心を静めるべく静かに息を吐きながら、筆を取りました。
　真ん中に縦線をすっと書き、力強くはねます。みるみるうちに、四文字が書かれました。

　水滴穿石

「水滴……石をもうがつ？」　
　あおいがちょっと自信なさそうに読みます。
「すいてきせきせん。力が足りなくても根気よく続ければ、しまいに目的をはたすことができるということのたとえだ」
　自分に言い聞かせるように言った彰尋に、あおいはにっこりしました。
「すごい、彰尋くんらしいね」
「そうか……？」
　多分今の俺の心情にぴったりかな、と彰尋は思っていました。
（普通の俺じゃあ力不足なのかもしれない。けれど、いつかは努力は実るものだって幼い頃からずっと信じてきた。だから、彼女のために出来る事をこれからもずっとしていこう、彼女が諦めない限り）
「それじゃ、またね」
　手を振って去るあおいに弟妹と共に小さく手を振り返しながら。
　彰尋は今までのあおいの料理の失敗を思い返しました。　
（……またちょっと嫌われそうなことを言うかもしれないけれども）
　成長を願えばこそ弟や妹についうるさく言ってしまう自分の性質を、彰尋はよく知っているのでした。
　　

このページにイラストを設定する