【お正月】寝子島神社に願いを込めて｜リアクション

【お正月】寝子島神社に願いを込めて

　誘いのメールを見て、透は息を飲む。
　了承のメールを送信した後、「……なんで俺は彼女の誘いが断れなかったのか……」と唇から漏れ出た言葉に頭を抱えた。
　複雑な思いとともに、了承の意を返した透は駅前で松生が付くのを待つ。
　一方の松生が一緒に行けるなんて――と逸る心を抑えて着付けの方法をインターネットで再確認しながら懸命のお洒落をしている事を知る由もない。
「……どうして……断れないんだ……」
　そして、切なさの意味を誰にも悟られぬ様にと小さく吐く白い息は、彼以外知る由もないのだ。

（着ものだったらちょっとは大人っぽく見えて、隣にいてもおかしくないかなぁ）

　周囲を見回し、緊張した面立ちの松生は駅前で待つ透の姿に表情を和らがせる。
　眠気眼は少しばかり開かれ、紳士的な立ち居振る舞いを見せた透へと「明けましておめでとうございます」と慌てた様に挨拶を見せる。
　整ったかんばせにやや表情の色を乗せ「……明けましておめでとうございます。……今年も、宜しくお願いしますね」と柔らかに笑いかけた彼を見て、ほっとした様に胸を撫で下ろした。
　人混みの中では二人が共に居ても誰も気にするものは無い。逆に言えば、互いを意識するのは互いのみと言うことだ。

　順にのんびりと並びながら祈ることが決まった透は息を飲む。
　手順をなぞり、口にすること無く心で願ったのは――懺悔の様な切なる祈り。
（……自分の偽りが剥がれ落ちませんように……）
　ああ、それでも――誰かにその偽りを見破られるかもしれない。その想いの片を感じとり仮面を剥ぎとる人物が現れるかもしれないと自嘲する。
　傍らで祈った松生が「日向さん？」とかけた言葉に彼は曖昧に笑った。

　――今年は、もっと日向さんに近付きたい。もっと、日向さんを知りたい。

　少女の願いは、切なるもので。もっと、と願う程にもどかしさが胸を過ぎる。
　彼と比べれば自分は子供で。年齢は追い付けないのだと厭になる程に理解している。
　消せない過去は、追い付けない年齢と似ていて。きゅうと締めつけるような痛みに、諦めきれないと唇は微かな音を立てた。
　もっと、もっと――仲良くなりたい。頑張りたい。頑張る力が欲しい。お願い、神様。

「おまもりと御神籤がほしいの。買いませんか？」
　社務所へと向かおうと誘う彼女の声に軽く頷いて、曖昧な笑みを浮かべた透は彼女の背を眺める。
　細い肩に、小さな背中。余りに遠く感じた彼女。
「日向さん？」
　曖昧な笑みを浮かべ追い付いた彼女の手に握られていた御守りは様々なものだ。
「れん、あい……」
　ひそかに恋愛成就を購入した松生は「色んな種類が売ってるのね」と周囲を見回す。
　同じカウンターに設置された御神籤を引いた日向は「吉」と小さく言葉にした。
「吉……？」
　こんなものかと、納得し、内容に目を通して居れば自分の御神籤を手にした彼女がきょとんと透を見上げている。
「どうかしましたか？　……あ、大吉だったんですね。おめでとうございます」
「は、い」
　驚いたと言わんばかりの表情は僅かに嬉しそうな色を乗せる。握られた大吉の内容も嬉しいものだったのだろうか。
「今年は良い事ありそうですね」と笑いかける彼に松生は大きく頷いた。
　次は何処に行こうかと歩き出す。
　逸れない様にと声をかけた透に頷いて隣を往く松生の視界に止まったのは並んだ露天の数々。
「あ、お汁粉」
　無料で配布している甘酒や温かなお汁粉に視線が止まる。
　着物姿で被りついたら格好悪いかしらとちら、と隣を見遣れば「どうしました」ときょとりとした透と視線がかち合った。
「あ、よければ、どうかしら……」
「そうですね。何か、買いましょうか」
　じゃあ、と瞳を輝かした松生は一緒に買いましょうと屋台の中へと彼を手招いた。