【お正月】寝子島神社に願いを込めて｜リアクション

【お正月】寝子島神社に願いを込めて

　境内から参道に向けては様々な露店が広がっていた。
　アルバイトが終わった楓子に「かーちゃん、巫女服のままがいいよ～」となつが人懐っこい笑みを浮かべる。
「巫女服のまま？」
「うん。着替えないで回ろうよ～。新鮮だし！」
　かわいいよ、とにんまりと微笑んだなつの言葉に了承し、楓子は騒がしい参道へと繰り出した。
　携帯電話に溜まったゲームの通知を見る間もなく、騒がしい人々の群れは電波を悪くする。
　からん、と下駄を鳴らした楓子は並ぶ露店を見回して、ちらりとなつを見遣った。
「労働後の楓子はお腹がぺこぺこだ。何か奢ってくれても良いぞ？」
　ワザとらしく腹をぽん、と叩いて見せた彼女になつは「りんご飴あるよ～」と指差す。
　可愛らしい巫女さんにおつかれさまと微笑んで差し出した甘い林檎飴を手にし満足げな楓子へと「後は、いろいろ半分ずつ食べようよ」となつは提案し、何を食べようか、と笑いかけた。

　

　恋人と一緒に初詣――の筈が……「すまない」と急用で初詣に共に行けないと朝から齎されたニュースは思わず正月を丸一日寝込んでしまいそうなニュースだった。
　頭を抱えている訳にはいかないと七峯亨はへこたれても居られないかと箱に仕舞ったまま、今日の為と大枚叩いて用意した紋付袴を引き摺りだした。
　こんな晴れの日でなければ着る機会もない。勿体ないか、と今年は一人で初詣だと――落胆混じりではあるが――意気込んだ。

　袴の裾に向かって赤い衣装をあしらったそれはエキゾチックな雰囲気の亨によく似合う。
　こつん、と石畳を叩くブーツの靴音が鼓膜に響くその心地よさが好きで、袴にも合わせてみたのだと彼は露店を眺めながら悠々と道を往く。
　かつ、と鳴る踵の音色がやけに心地よく、それでいて喧騒に揉まれる様に進むしかない道は少々の面倒さを感じさせる様だった。

　――縁ある人と、共にその縁に相応しく在り続けられます様に……。

　賽銭を投げ入れ、作法に則って。真摯に願いを込める亨はより深く届く様にと祈りを捧げる。
　自他共に認める『黙っていれば美形』タイプである彼の真摯に祈祷を捧げる姿は様になる。紋付き袴も相俟って、素晴らしい画だろう。
　願いは愛しい人に対することだけではない。些細な縁であっても、その続く縁の求めに応えられるもので在りたい。
「なんてね」
　にっ、と唇で弧を描いた亨の想いは常と変わらない。
　優しくでも、強くでも、真摯にでも、お茶目にでも。
　相手が望む『自分』であるために。相手にとって相応しくあるように。
　相手も変わらずか――時節が過ぎれば変わることだってある――お互いに良縁を求め、結べる者同士であるように。
　大それた願いなのかもしれない。贅沢者だと神に笑われるかもしれない。
「己の願いに正直なのも愛嬌ってことでひとつ」

　

　からからと、あっけらかんと笑った彼に神様がどう思うのかは分からない。
　ならば答えを聞いてみようと社務所へと足を進めれば、混雑が少し落ち着いてきたのだろうか、御神籤売り場では一息ついた舞が座っている。
「おみくじですね」
「全ては時の運、思い切って引いてみようかと思ってな」
　どうぞ、と該当番号の紙を手渡され亨は、少々緊張した様に結果を見遣る。
　どの様な結果でも活かしてみようと見据えたのは『末吉』
　裏に書かれたのは『禍ひ事もなく、辛抱強く先を見据えたらば、良縁来たりて』と書かれている。
「こういう御話を読むのがこれまた楽しみでね。
　ちょっと心に留めておくだけでも、役に立つ時が来る……かもしれないな？」
「そうですね。御心に留めておくだけでも神の加護はありますよ」
　受付でのほほんとした雰囲気で返す舞へと「身代守を二つくれないか」と亨は言った。
　一つは恋人に。もう一つは自分用に。
　恋の御守は二人の時に買おうか、と。新年始めに購入した身代守を手に、亨は踵を返す。
　まだまだ騒がしい参道にはらりと振った雪は冷たく「冷えてきたな」と彼は肩を竦めた。

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