【お正月】寝子島神社に願いを込めて｜リアクション

【お正月】寝子島神社に願いを込めて

　賑わいを見せた参道商店街には新年を祝い出店する姿が見られる。
　ゆっくりと歩を進め、寝子島神社へと足を踏み入れた輝夜の視界に入ったのは腕を組み楽しげに会話するカップルの姿だった。からんころんと軽やかな音を鳴らし歩む女性をエスコートするようにゆっくりと歩を進めた男性。微笑ましささえも感じるその姿に輝夜は茫と仄かな想いを抱き、小さく息を付いた。
「……一人は寂しいかな」
　初詣にひとりきり。何処か寂しさが胸に過ぎり輝夜は小さく息をつく。折角の機会なのだから慎之介を誘えば良かったかと小さな小石をころりと蹴った。

　

　長蛇の列を作る群衆と共にゆっくりと歩を進めながら辿りついた賽銭箱。
　硬貨を放り、乾いた音を耳にしながら、作法を思い出す。
　カランコロン――乾いた鈴の音を耳にしながら、中学生活最後の年となる一年を思い浮かべ、勉学を神頼み。
　恋愛事は高校生(おとな)になってからと祈る輝夜の背中へと「あれ？　お前も初詣？」と聞き慣れた声が掛かった。
「――！」
　は、と息を飲んだ輝夜が瞳を輝かせる。長い黒曜の髪が風に揺れ、浮足立った思いに肩が揺れた。
　慎之介くん、と呼んだ名前に「明けましておめでとう」と定例の挨拶が帰ってくる。マフラーを巻き、寒そうに悴む掌に白い息を吹きかけた慎之介と共に屋台へと向かいながら輝夜は問い掛けた。
「お願い事した？　やっぱり部活？　それとも勉強？　まさか、恋愛！？」
「恋愛！？　へへっ、やっぱり部活も勉強もパーフェクトにこなさなくっちゃだろ！」
　常と変わらぬ笑顔に、裏表の無い屈託のなさを感じる。
　屋台から立つ食欲を誘う香りにハングリーと奇妙な英語を交えた口調で語りかける彼の言葉をそこそこに聞きながら輝夜は射的の前で立ち止まった。
「ん？　どうした」
「あ、あの……三日月のブローチ、可愛くない？　すっごい、可愛いのっ！」
　チャレンジしてほしいと瞳を輝かせた輝夜へと慎之介はしょうがないなと胸を張って射的へと、いざ、チャレンジ！
　懸命なチャレンジを応援する輝夜。バスケで培われた洞察力を活かして懸命に的を狙う慎之介の背中を見詰め輝夜は小さく息を吐いた。
「お、おお！　ブラボーッ！」
　かこん、と音を立てて落ちてゆく的。プレゼントだと手渡されたブローチは冷えた空気に触れていたにも関わらず、何処か暖かく感じた。

「中吉……」
　御神籤を手に、様々な御守りが並んでいる受付へと視線を滑らせた。
　部活で活躍できますようにと祈った手作りの御守りに効果があったと屈託なく行った彼を思い出し輝夜の唇にはつい、笑みが浮かぶ。
　こっそりと購入した『恋愛成就』――これがまだ恋愛かは分からないけれど。
　心を酌み交わしたいと思う相手がいるのだから、と懐へと仕舞いこんで輝夜はほうと息をつく。
　赤らんだ頬を隠す様にうんと一つ背伸びして、「たこ焼き二つ買って帰ろうっと」と呟いた。

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