おおそうじ！｜リアクション

おおそうじ！

「毎年思うけど、この時期の『コレ』はハードワークよね」
　城山水樹の実家は、参道商店街にある古本屋だ。
　『二十九日から新年の三が日まで休業』との旨を店のシャッターに貼り、最初の二日間をフル稼働してお店と自宅の大掃除を行う。一家の恒例行事だ。
　在庫の整理や書棚の清掃、商品の入れ替え。さらに大掃除の時期なので、店で買い取った本の整理もそこに加わる。水樹をして「てんてこ舞いよ」と言わしめるのが、特にこの在庫整理だ。
　朝五時起床・作業終了が午後十一時というのは、何かの苦行ではないかと、やるたびに水樹は思う。
「この時期だけでもアルバイト雇ったら？」
「こんな年末に、こんな可哀そうなことさせられるか」
「私はいいのね……」
　毎年恒例とも言える会話内容なので、水樹も含め誰も本気ではない。本気ではないが、細かい作業が苦手な水樹にはなんともストレスのたまる作業である。
　家族を総動員して行う初日を何とか乗り切れば、翌日は自宅の大掃除が待っている。
　水樹がこの日やるのは家族の手伝いと、自分の部屋の片づけ。
「はふぅ……」
　前日の作業でくたくたなせいか、ついついあくびが出てしまう。手伝いが終わって自分の部屋に戻ると本能が睡眠をうったえてくるが、水樹はなんとか理性で持ちこたえた。
　整理すべきは、おもに衣装である。
　モデルの仕事をしているというのもあるが、自前で買ったものもあれば貰いものもたくさんある。そうしたものが一緒くたとなったクローゼットはこの時期になると飽和状態となっており――当然、どうにかしなければ来年の衣装を直すのに苦労することになる。
「さて、やりましょうか」
　水樹は衣装の群れに手を伸ばした。判断に迷うものは一旦保留して、二度と着そうにないものを中心に片っ端から春物、夏物、秋物、冬物、小物類などにより分けていく。
　それらを丁寧に折りたたんで、段ボール箱に入れる。古着屋に売りに出したり、フリマに出したりして、大切にしてくれそうな人に売ったりする。売り物になりそうにない物については、さすがにゴミとして処分する。
　買って喜んでくれたり、大切にしてくれたらいいな――と水樹は思う。
　なんといっても自分と関わった服だ。その服を着ていた時に思ったこと、経験してきたことがある。服を手放してしまうことは、そういった人生の一部を切り離してしまうようで、どうしても後ろ髪を引かれる気分になってしまうのだ。
「あ。いけない……」
　気付けば手に取った衣類や小物類を一つ一つ懐かしみ、思い返していた。
　こうなると分かっていたから、機械的に作業を進めるつもりだったのに。
「でも、仕方ないわよね」
　それぞれの服に撮影時の思い出やハプニングなどがあって、そういったものも含めて、自分の人生として楽しんできたのだ。
　それに懐かしんではいるが、これは同時に未来への期待でもある。
　この一年で積み重ねてきたことは、きっと来年への糧となる。
　こうして見返して連想するのも、自分の歩みを再確認するため。
「そういえばこれを着て撮影した時、いきなり大雨に降られて全身ずぶ濡れになって……」
　再確認するため……にしては、思ったよりも時間がかかってしまって。
　結局、水樹の作業が終わったのは深夜も遅くであった。

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