アンノウンで月蝕を｜リアクション

アンノウンで月蝕を

【エピローグ】

　やがて月蝕が終わり、『アンノウン』の逆転現象は終わりを告げた。
　人間たちは本来の姿を取り戻し、夢から覚めたかのように互いに顔を見合わせる。
　瑠樹も本来の小学生の姿を、取り戻していた。
「今度は間違って入らないように、気をつけるなぁー！」
　ミルクの代金を払って言う彼に、カニの姿に戻ったマスターがうなずく。
　その彼に、修が声をかけた。
「曖浜も俺たちと一緒に帰らないか？　もう外は暗いからな。小学生一人じゃ危ない」
「そうなのです。それに、道に迷ってここに来たなら、私たちと一緒の方が道わかるかもしれないのです」
　美咲紀も、傍から言う。
　月蝕を眺める間に、彼らは互いに自己紹介をすると共に、ここに迷い込んだ事情を話したりしていたのだった。
「ありがとうだよー。じゃあ、一緒させてもらうねぇ」
　瑠樹はうなずくと、二人と共に店を出て行った。

　同じく店を出たすばると美野梨は、元に戻った月の下を歩いていた。
「なんだか不思議な現象だったわね……」
「うん、ボクまさか、女性になるとは思わなかったよ」
　呟く美野梨に、すばるもうなずいて言う。
　途端に、彼女は笑い出した。
「そうね。しかも、まさか人狼とは思わなかったわね」
「神野さんも、吸血鬼だったの黙ってたの、ずるいよ」
　すばるも思い出して、返す。
「ごめんごめん。でも、今日はお互いさま、よね」
　言って、少し考えてから尋ねた。
「あの……ね、狼って乳房が八つあるじゃない？　すばるくんも狼になった時、胸が八つあったのかしら」
「え？　……さ、さあ」
　言われて考えてみるものの、すばるにはまったく狼と化した時の記憶がない。
「なんか夢中だったから、覚えてないや」
「そうなの。……残念」
　本気でがっかりしつつ、もしまたこんな機会があったら、今度は当人に調べてもらうぐらいはしてもいいかもしれない……などと思う彼女だった。

　人間の姿に戻った碧南は、見慣れた視界に小さく吐息をついた。
「元に戻っちゃったね。……リスの目で見た世界、新鮮で楽しかったな」
　軽く伸びをして、でもまたこの１８０センチオーバーの高身長女子として生きて行くんだ、などと思いつつ、彼女は店をあとにする。
　暗は、元の姿に戻ってホッとしたが、少しだけ残念でもあった。
「再び俺の力と姿が封印されてしまったか……」
　そう呟きつつ、店をあとにした。
「今度は、鳥さんの姿で寄りに来ますね」
　そう言って、美弥子や尚輝と共に店を出たのは時子だ。
　彼女は月蝕を、時間が経つのを忘れて見入っていた。完全に暗くなった時には、小さく拍手をしてしまったほどだ。
「はい、お待ちしています」
　マスターのそんな言葉に送られて外に出れば、ヨタカが迎えに来ていた。
「ヨタカさん……」
　時子は軽く目を見張り、足元に舞い降りたヨタカの方へとしゃがみ込む。
「もう少し早かったら、見られたかもですね……」
　事情を説明し、告げるとヨタカは驚いた様子を見せる。
「興味はあるみたいですね……」
　それを見て笑うと、時子は美弥子や尚輝と共に歩き出した。

　こうして、喫茶『アンノウン』での月蝕による逆転現象は、終わりを告げたのだった――。

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