ウィンター！部活動のお時間です！～文化部編～｜リアクション

ウィンター！部活動のお時間です！～文化部編～

　ギイイイイ……
　玄関の重い扉が軋む。
　一歩中に足を踏み入れると、空気が澱んでいた。
　黴臭いような独特の臭気。

「あう。廃屋だから埃凄いですね」
　美咲紀が言う。
「人が住んでいないと屋敷って意外と荒れるのですねぇ」
　ガタガタ！
「ひゃうん」
　思わず美咲紀の口から小さな悲鳴が漏れる。
「ひゃー、何今の？」
　ののこが言い、美弥子はののこにしがみつく。
　音を聞いた瞬間真央の肩が跳ねるが、それ以上の動揺はない。
「何か変な音がしました。別の部屋っぽいですね」
　そう言って美咲紀は音が聞こえるほうに向かう。
「ここで我々が掴んだこの家の来歴を話そう。この家にはかつて美しくピアノが上手な娘が住んでいたが……若くして亡くなってしまった」
　修が声を潜めて言う。
「それからというもの、ポルターガイストやラップ音、さらにはピアノが独りでに鳴るという」
「や、やめてー」
　美弥子は顔を青くして震えている。
　真央は持参したアメリカ製のマグライトで周囲を照らしながら黙って歩いていた。いざとなったら殴打武器にも使える。
「実は……その娘の小さな弟もその後死んでしまい、残された夫婦も後を追うように……おっと、部屋があるな」
　修が足を止める。　
「音が聞こえたのはこの部屋でしょうか」
　幽が扉を開くと、ひやりとした空気が流れ出してきた。
「応接間のようだ」
　修が撮影しながらあたりを見回す。
　埃をかぶった調度品が並んでいるが人の気配はなく、静まり返っている。
　大きなピアノが一際目を引いた。
「さっきのは、小動物が走りまわるような音、と言えばそれっぽいですが。心霊現象っぽい音と言われるとそんな気もしますですよ。どっちでしょう」
　美咲紀が言う。
「ここ、なんだか寒くない？」
　美弥子の言葉に、
「寒いのは幽霊のせい！　……というより、普通に気温が低いからですよネ」
　美咲紀がおどけてみせる。
「独りでに鳴るというのはこのピアノのようだな」
　修はピアノに近づき、蓋を開いた。
「一寸弾いてみよう」
「え、弾いちゃうの？」
　修はためらわず指を鍵盤に走らせる。
　軽やかに、恐怖テレビ番組「本当にあった恐怖の話」のテーマ曲が流れだす。
　腕前は確かなのだが、調律されていないためだろう、他の音が混ざってワーンとこもった音になる。
　それが怖さを増幅させた。
　真央はピアノを弾く修を撮影しながら、心の中で呟いていた。　
（相手がこっちを殴れるなら、こっちが相手を殴れない筈がない。習うより慣れろ。人間が１番怖いのは人間で、喧嘩はスキルと気合でするものだ）
「音楽は人の感情を動かすけど、死んだ人にも効果あるのかな……」
　そう呟いて、美弥子は自分の言った言葉に怯えるように身をすくめた。
「どうだろうな。……真央、大丈夫か？」　
　ピアノの蓋を閉じた修が真央に近づき、ぽんぽん、と肩を叩く。
　一瞬、真央の唇がめくり上がり戦闘的な笑いが漏れた。
（ほら、もう怖くない）
「大丈夫なのだ」
「そ、そうか……」　

「庭は植物天国なのです！」
　窓から庭を見た美咲紀が歓声を上げた。
「手入れをしていないのに枯れないのか？　……地下水かな」
　修が呟き。
「とりあえず悪いものの気配は感じません」
　撮影しながら幽が言った。
「春になったら色々と花が咲くかも？」　
　嬉しそうに言った後、美咲紀が怪訝な顔をした。
「あれ、今何人います？」
「１、２、３……ちゃんと全員いますが」
　月が数える。
「あれ、気のせいでしたか。ならいいんです」
　美咲紀はそう言って屋敷探索に戻った。

「一巡りしたが、何も怪しいことは起きなかった」
　修がリポートを〆る。
「総じて幽霊はシャイですので、なかなか姿を現してくれないのです！」
　美咲紀は持論を力説した。
「なんだ、残念ー」
　ののこの言葉に美弥子が突っ込む。
「出てこなくていいよ～！」
　昼の探検は無事終了し、一行は廃遊園地へと向かった。

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