クリスマス・プレゼント｜リアクション

クリスマス・プレゼント

　ラジオからはクリスマスソングが流れている。nkFMの夜の落ち着いた選曲を聞きながら、深倉理紗子はちょっと手を止め、ほんの少し冷めてしまった紅茶に口をつけた。

　去年、理紗子にクリスマスはなかった。カレンダー上にはあったのかもしれないが、彼女のスケジュールは勤務で真っ黒だった。寝子島総合病院の勤務医である理紗子。去年のイブは宿直で、そのまま連続３６時間勤務という激務をこなし、クリスマスどころか彼女は季節の移り変わりすら感じる暇もなかった。
　いくら彼女がまだ若いにしても、限度がある。今年秋、とうとう理紗子は過労で倒れてしまった。まさに医者の不養生。そのまま1ヶ月ほど病気療養となり、今月になってようやく職場復帰をしたのだ。そのせいもあってか今月はまだ比較的楽な勤務にしてもらっている。
（……おかげで久しぶりに今年はまともなクリスマスを迎えられそうだわ）
　まあ、それもいつまでも続きはしまい。どうしたって徐々に忙しくなるのは目に見えていて……。それでも、少しでも季節を楽しめるのは、理紗子にとって嬉しい事ではあった。

　ラジオのパーソナリティが、今年のクリスマスプレゼントの話題をしている。リスナーの質問がちょっと面白く、理紗子はふふと笑いながらまた編み棒を持つ手を動かし始めた。

　去年、自分にとってはクリスマスは無いも同然だったが、プレゼントは貰った。親友から、コートを。中学以来の、何でも話し合える大好きな親友。彼女のくれたコートは今年も冬の寒さから理紗子を守ってくれている。あとから実はかなり高い物だと知ってびっくりしたりもしたが。
　彼女の気持ちがとても嬉しかった。彼女は演奏家なため、お互い多忙でなかなか会えない。でもコートに袖を通す度、彼女の明るいお喋りが聞こえてくる気がして、寂しさも紛らわせた。
　だから今年、落ち着いてクリスマスの事を考えられるようになった時、理紗子は真っ先に彼女に何か贈り物をしようと思った。
（あの子も実は寒がりなのよね）
　今年は私があの子を寒さから守ってあげよう。こんなに時間が取れるのはもうなかなかないかもしれない。理紗子は彼女へのクリスマスプレゼントに、セーターを編む事にした。

　彼女を思い浮かべ、落ち着いた感じがいいのではと毛糸はシックな色合いなものに。編み物なんて高校生の時以来。実は編み始めるまでもしかすると忘れてるんじゃないかなと不安だったが、いざ編み棒を手にするとすんなりと手が動きほっとした。
　仕事の合間にしか編めないが、それでもその時に集中して進めていく。編む事自体が久し振りで楽しく、没頭してしまい少々睡眠時間を削ってしまう事もあった。
　でも、ちっとも嫌じゃない。むしろ楽しくてしょうがない。自分の頑張りが手元できちんと形になっていくというのはとても嬉しいものだ。ましてや自分の大事な人にあげる物なのだから。

「もう少し……」
　理紗子は仕上げの毛糸針に持ち替える。紅茶はすっかり冷め、ＦＭは違う番組を流していた。それにも気付かず理紗子は丁寧に一針一針進めていく。

「出来……た」
　毛糸針を外し、理紗子は出来上がったセーターを机の上に綺麗に広げた。
　久し振りの手編みとは思えないくらいの出来だった。毛糸もこの色にして良かった。彼女の雰囲気にピッタリだ。
「喜んでくれるといいな」
　後はこれを綺麗にラッピングして、サプライズで渡す事にしよう。
　編んでる時もそうだったが、セーターが完成していよいよクリスマスが楽しみになる。
　彼女がこれを着た姿を想像して、理紗子はふわりと微笑んだ。

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