クリスマス・プレゼント｜リアクション

クリスマス・プレゼント

　星ヶ丘寮の１室。日本家屋のような自室で、御巫時子は炬燵に入って編み物をしていた。
　隣では夜鷹がゆったりと羽をつくろい、その傍では雷鶏が毛糸玉をつんつんしながら転がしている。そんな２羽の姿を見ながら時子の顔は自然とほころぶ。
　全員が思いのまま、ゆっくりと過ごす冬の夜である。
　ほっこりした気持ちでまた編み物を始めた時子だったが、またふとその手を止めた。

（尚輝先生へのクリスマスプレゼント、どうしましょう……）
　ボサボサ頭の化学教師、五十嵐尚輝の姿を思い浮かべ、時子の頬はほんのりと赤くなった。
　マフラーと手袋はやめようと思っていた。尚輝の誕生日に手編みの物をプレゼントしたからだ。それをどうやら使ってもらってるらしい事を思い出して、またまた頬は赤味を増す。
　そんな時子に、夜鷹が『どうした？』というように首を傾げる。時子は頬を赤くしたまま首を振った。
「大丈夫ですよ、ヨタカさん。尚輝先生のプレゼントをどうしようかと思いまして……。あ、ヨタカさんや雷鶏さんも相談に乗ってもらえませんか？」
　時子の言葉に夜鷹がゆっくりと頷く様な仕草を見せ、雷鶏はその瞳をクリクリとさせた。まるで時子の言葉を解っているかのようだ。
　実は時子はろっこん＜鳥の囀り＞で、２羽に話しかけていた。だから２羽は実際に時子の言葉に答えていたのだ。時子は２羽に向かって微笑んだ。
「まあ、ありがとうございます。先生のお役に立ちそうな物が良いと思っているのですけど……」
　２羽は同時にちょこんと首を傾げた。

「理科室は暖房類がないようなので、コンパクトに畳める毛布や暖房器具とも思ったのですが……」
　時子は寒い理科室で、常に実験に夢中な尚輝を思い出す。実用的ではあるが、どうもクリスマスらしさには欠ける気もする。
「クッキーでできたクリスマスツリーはどうでしょうか？」
　ツリー型の少し大きなクッキーに、オーナメントとしてチョコや飴などをぶら下げるやつだ。とてもクリスマスっぽいし、鳥のオーナメントを作ったりしたら可愛いのではないだろうか。
「終わったら食べられますしね」
　これならクリスマスが終わって置き場所に困る事もないし、コーヒーのお供にもぴったりだ。あ、コーヒーと言えば……。
「先日ビーカーに取っ手がついてるようなカップを見つけたんですよ」
　雑貨屋で見つけた一風変わったカップ。それは時子の目を引きつけた。耐熱ガラスで出来ていて、形がビーカーに良く似ている。時子は無頓着にコーヒーをビーカーで飲む尚輝を思い出す。これなら取っ手もあるから熱いコーヒーでも火傷しにくい。

「コーヒー専用に使ってもらえたらいいですよね」
　時子は笑顔で２羽に話しかける。夜鷹は真剣な目で時子に頷いたが、横の小さな雷鶏はこっくりこっくりと静かに舟を漕ぎ始めていた。
「雷鶏さんはもうおやすみですね……」
　雷鶏を優しく見つめる時子に夜鷹がキョキョキョと鳴いた。
「え？　先生がそのカップを間違って実験に使わないか、ですか？　ど、どうでしょうか……」
　尚輝の無頓着ぶりについて、１人と１羽が真剣に考え始める。

　―――冬の夜が温かく更けていく。

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