クリスマス・プレゼント｜リアクション

クリスマス・プレゼント

　１人の青年が、自室で大いに悩んでいた。
　もうすぐ、クリスマス。八神修は、七夜あおいにプレゼントを贈ろうと考えていた。
　大切な、人。社交辞令なら簡単に決められるが、好きな女性にはそうはいかない。
（あおいが心の底から嬉しいと思う物。心を込めるのは勿論だけど、彼女が喜ばないと意味がない）
もしもいつもの彼を知る人が今の修を見たら驚くのではないか。クールで合理的な修が１人の少女を想い、プレゼントでうんうん唸るその姿。何だか可愛らしくすらあるが、当の本人はこれ以上ないくらい真剣だった。

「服……はどうだ」
　腕組みをして修は考える。あおいに似合う可愛い服。いやきっと何着ても似合うけど。でも、服って脱がしたいから贈るって話もあるよな。……それはまずい！　却下！
「ネックレスとか……指輪」
　ピンクダイヤとかいいよな。でも、ネックレスや指輪って贈る相手を束縛するって意味合いがあったんじゃないか？　束縛したくないと言ったら嘘になるけど……、やめておこう。
「本は」
　俺らしいな。すごく。けど、地味か……。
「ガラスの靴に薔薇」
　綺麗だな。けど、シンデレラか！　第一靴って贈ったら相手がそれ履いて逃げるって言わないか？　逃げられたくは、ないなぁ。
「エプロン」
　あおいはお弁当作り頑張ってるしな。でも、服にはいるのかな？　そういや、「エプロンは男の夢だ！」とか言ってた奴いたけど、どういう意味なんだろう。……家庭的って事か？

　あれこれ修は考えるが、あおいの事を考えると、どうしても決まらない。だってそこらの女性じゃないんだ、あおいにあげるんだから。エプロンなんかは悪くないと思うんだけど。お弁当作り……。
「そうだ！」
　小さく修が叫んだ。弁当箱と箸はどうだろう。値段も負担に思われないし、個性も出せる。これだけだと家庭的すぎるから、何か足して……。
　いいかもしれない。どんなデザインがいいだろう。大きさは？　お店はどうしようか。
　真面目な顔で検討し始めた修。夜は深々と更けていく。

　翌日。修は買い物に出掛けた。そこかしこに飾り付けられた小さなツリー、外壁のイルミネーション。街を歩くだけで心も華やぐ。人通りも多く、皆楽しそうだ。
　そんな中、修は友人の恵御納夏朝に出会った。あまり感情を表に出さない友人だが、その時ばかりは彼女もこのクリスマスの魔法にかかってるかの様に、ほんわかと楽しそうだった。
　そう、魔法。寝子島中に、世界中にかかっている魔法。みんなみんな、素敵なクリスマスを迎えられればいいな。
「俺も頑張ってプレゼントを選ばないと！」
　よし！　と気合いを入れ直し、修はお店を巡り始めた。

　そして、夜。
「うん、いいんじゃないか？」
　修の自室の机に、数点の物が広げられていた。それを修は満足そうに眺める。
　当初から予定していた、弁当箱。これにはこだわった。汚れが落ちやすい材質で、ダイエット（まあ、あおいには全く必要ないのかもしれないが）に悩まずにすむ小さめな物。プラス、勿論デザインが可愛い物。それらの条件を全て満たした、猫が描かれた可愛らしい弁当箱が修の目の前にあった。
　このこだわりの弁当箱とお揃いの箸、箸箱も付け、修はそれらを１つの巾着に丁寧に仕舞う。そして目の前のある物に話しかけた。
「……お前、頼むぞ」
　話しかけられた猫の可愛い縫いぐるみが、目をくりくりさせている。修はちょっと微笑むと、巾着を猫に抱えさせた。そしてカードを添え、丁寧にラッピングしていく。

　これを受け取ったあおいは何て言うだろう？
（有難う修君！）
（可愛い……。あ、巾着にも何か入ってる？）
（お弁当作り、頑張ろうっと）

　プレゼントに掛けたリボンの最後の一結び。修の胸は大好きなあおいの笑顔でいっぱいになった。
　―――喜んで、くれますように。彼女の、そして俺のクリスマスが幸せなものになりますように。