シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

（……そういえば、子供の頃はこういう店へ行くのが好きだったわ）
　三宅葉月は、精巧に造られた小物を手に取る。
　その表情には、いつもの人形を連想させる硬質な美貌から、少し柔らかみがあるようだった。

　彼女も、たまたまJoulupukkiを見かけた。
　シーサイドタウンでの帰り道。
　店の佇まい、雰囲気が、彼女を引き留めた。

「……」
　彼女の家では、クリスマスの飾りつけ、小物のデザインなどは全て葉月自身が行っている。
　彼女が身に着けるアクセサリーなども、基本は自作である。
　別にことさらポリシーがあるわけではないが、自分の本当に気持ちにかなうものが見つからないだけなのだ。
　多少時間はかかっても、自分に嘘をつかないものだけに囲まれていたい。
　だが――。
　既製品をことさら嫌うわけではない。
　それに、このお店は、なんとなくお仕着せのクリスマス雑貨店とは、違う趣があった。
　―－星ヶ丘寮へ、今すぐ帰らなきゃいけないわけじゃないし。

（……）
　実に、葉月の予想していた通りの空間だった。
　店内の装飾、配置、売り物の一つ一つまで、神経が行き届いている。
　さまざまに創意を凝らしたクリスマスリース。
　人形。
　オーナメント。
　見ているだけで楽しい。
　強い思い入れが感じられ、指先からエネルギーが伝わってくるようだ。
　文化を感じさせる装飾品に、葉月の創作意欲も刺激される。

　はしゃぐ声。プレゼントを探すため、真剣な人々の顔。
　ゆるぎなく、確かなもののある空間。

（そういえば……）
　オーソドックスな意匠のオーナメント。
　一風変わった小物類。
　そうした、クリスマスのにぎやかなひと時を盛り上げる品々。

（そういえば、子供の頃はこういう店へ行くのが好きだったわね）
　ありふれた、気にも留めない風景が、不意に強い感興を誘う。
　手の中にある、ありふれた人形。そんなのが好きだった。
　今は、どうだろう？
　自分は、変わってしまったのか？
（……ううん、今でも好き）

　子供のころから技術も知識も増えたけれども、結局追い求めているのは、子供のころ受けた感動や、喜びや、美しさへの素直な憧れなのかもしれなかった。
　
　その歩みは、ツリー売り場へ。
　あれこれと悩む武道と荒太郎に軽く会釈して、葉月は迷わずに、純白の小ぶりなツリーを手に取る。
　スノープラザツリー。
　精巧な、それ自体人工物のような樹木は、きわめて貴重なものだ。
　雑貨コーナーに移動して、一つ一つ丁寧に手に取っていく。
　いくつか心にかなったオーナメントを購入する。
　木を組み合わせただけの素朴なタリスマン、緻密な模様が印象的な端切れ。
　派手さはないものの、心のこもった物品だ。
　こうしたものは、芸術価値が極めて高いものもある。ケルト、バイキングの文化を連綿と伝える、きわめて貴重なものが、クリスマスグッズには紛れている。
　葉月にはそういうことは、実はどうでもよい。
　審美眼に合うものを見つけるのが大事なのだ。

　……今年も、そんな季節になったわね。

　つぶやいて、葉月は店内を巡る。