シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

　そんな朱蘭を見つつ、店内を巡る荒太郎がであったのは、志波武道。
　互いに見知った間柄、挨拶を交わす。
　他人を気遣い、行動を先回りすることを旨とする武道、朱蘭の水際だった動きに感嘆を隠せない。

「イヤー、クリスマス雑貨店って噂になってたし、セッカク来てみたんだけど……なにこれ凄い！」
　店内の様子に圧倒されていた武道、改めて感嘆の声を上げる。
「クリスマスのことなら、ミルカちゃんに聞くのが一番だね～、がんす！」
　力強く言って、ミルカの方を見ると、サンタ姿が小さく会釈を向けた。
「サンタさんのお孫さんって噂だからね～」
　確かに、祖父がクリスマス前に忙しくなったり、フィンランド出身だったり、その神秘的な様子とも相まって、ミルカには不思議な噂が事欠かなかった。だが、本人はそういう噂を知ってか知らずか、にこにこ笑っているだけである。

「くりすまっすーの、ぷーれぜーんと♪」
　思わず歌声が漏れてしまう武道。
「ここ、見てるだけでも楽しいな！　イヤァ、楽しいよね、ワクワクするよNE☆」
「前にも来た事あるけど、クリスマスシーズンはなかなか来れなくって～」
「クリスマスに来るので、気合が入ってるじゃねえか」
　テオが荒太郎の様子を見て言う。
　爽やかなグリーンに、尖った靴。
　紅白ストライプのソックスが鮮やか。
　クリスマスらしく、サンタの助手の妖精、クリスマスエルフのかっこうである。
　猫鳴館の座敷童の異名をとる荒太郎、土着の、生活感あふれるフェアリーのかっこうは、彼のがっしりした体躯ともよくあっていた。
　別にことさら気合を入れたわけではないが、クリスマスだもの、扮装の一つも出ようというものだ。
「うんー、寮にクリスマスツリーを立てたけど、ツリーと大部屋の飾りが、ちょっと足りない気がして」
　寮の飾りつけと聞き、さりげなく歩み寄る朱蘭。
「実家だと、毎年飾りつけ当番してたっけ。……この時期になると、わくわくしちゃうんだよね」
「雨崎様、イブのお生まれで」
　すっと頭を下げる朱蘭。
　客の名前、誕生日、好みなどは全て把握しているのが、コンシェルジェの務めだ。

「予算も、たんまりあるから！」
　そう言って、懐を叩く荒太郎。

　普段は赤貧にあえぐ生活をしてる猫鳴館寮生だが、ことお祭りごととなると違う。
　なけなしの生活費をなげうって、大騒ぎのために基金を積み立てるのだ。
　１０日連続カップラーメンが続いても、ツリーに星を！
　お祭りに生き、お祭りに死ぬ、猫鳴館寮生の心意気だった。